頼りになる生徒会長②

「相手への好きの種類が分からない……それに、その子とはいずれ離ればなれになるから、恋愛の好きだとしてもどうするのが正解なのか分からない……かぁ」


数時間後、私たちはおしゃれなカフェに来ていた。私はあくまでも知り合いの話という体で、美波さんに自分の置かれた状況を伝えてみた。私のまとまりのない話を整理するように呟くと、美波さんは腕を組んで考え込む。


「なんかごめんね、突拍子もない話で」


他はともかく、この世界からいつか現実の世界に戻らなければいけないことを、どう説明すればよいか分からなかった。だから、いずれ離ればなれに、二度と会えなくなる……と濁して話した。


「まず、好きについてなんだけど……これも難しいなぁ。私はね、元々海谷先生のこと優しい先生だな、ぐらいにしか思ってなかったの。でも、私しょっちゅうドジして保健室に行ってたからその度に心配されて、厳しく注意もしてくれて。そのうちにだんだん好きになっていったんだよね……姫乃ちゃん達みたいな一目惚れパターンもあるし、好きになるきっかけって人それぞれだと思う」


美波さんはそう言って一息つくと、ジュースを飲み再び話し始める。


「だから……うーん、言葉では説明しづらいなぁ。ざっくり言うと、好きって思ったら、好きってことなんだと思う。それが人としてなのか恋としてなのか、深く考えなくていいと思うんだ、私は。一緒にいて、楽しくて、嬉しくて、時々切なくなったり、ドキドキしたら……それは恋なんじゃないかなって、私は思うよ」


まるで、妹を見守る姉のように、美波さんは私を見た。


「ドキドキ……」


美波さんの言葉で、昨日の夜のことを思い出す。ちーちゃんと距離が近くなって、訳が分からなくなるくらいドキドキした。恋としての好きだと確信してもいいのだろうか……。


「あとね、会えなくなってしまう……っていうのも、深く考えなくていいと思う。その子を幸せにしたいと思ったのなら、一緒にいられる間は絶対に自分自身で幸せにしてやるって勢いでいればいいと思う。その方が、先のこと考えて何もしないよりは断然いいよ!だからね、もしちゃんと好きだって思ったのなら、早く伝えてあげてほしいな。……千尋ちゃんに」


「えっ、な、なんで私とちーちゃんのことだって分かったの……!?」


ちーちゃんの名前が出て驚く私に、美波さんは得意気に言った。


「そりゃあ分かるよ。だって、初めて会ったときから二人とも仲よさそうだったもん。それに、なんとなく雰囲気がそう見えたから……」


そういえば、那月にも付き合っていると勘違いされたことあったな……。


「離ればなれになる……?っていうのがどういう状況なのか分からないけど、とにかく私は二人のこと応援してるから!梅原さんも自分の気持ちに素直になって」


「いやでも、もし私がちーちゃんのこと好きだったとして……ちーちゃんが私のことどう思ってるかなんて分からないし、好きだって伝えても迷惑になるだけかも……」


「自分のこと好きだって言われて、嫌な気持ちになる人なんていないよ」


美波さんは静かに首を振って言った。


「そうかな……?」


「うん。梅原さんは何でも考えすぎなんだよ。慎重になるのもいいけど、たまには思い切った行動も必要だよ」


私は少し逡巡した後、口を開いた。


「うん。ありがとう……美波さん」


私が名前を呼ぶと、美波さんは何か言いたげにこちらをじっと見つめる。ちーちゃんとのことかと思って身構えていたら、違った。


「その……もしよかったら、名前で呼び合わない?」


「えっ……?」


「だって、梅原さん海に来たメンバーほとんど名前で呼んでるじゃない?私だけ名字呼びってなんだか堅いなあって」


「じゃあ……結佳ちゃん?」


「やった!じゃあ……千尋ちゃんとのこと、応援しているからね、七瀬ちゃん」


人懐っこい笑みを浮かべる結佳ちゃんを眩しく思いながらも、私は心のどこかで誰かに背中を押してもらいたかったのだと自覚する。自分はいつかは現実に戻らなければいけないと思い過ぎて、気持ちに蓋をしていただけなのかもしれない。早くちーちゃんに会って、確かめたい。ちーちゃんへの好きが、ゲームをプレイしていた頃とは違うということを。

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