頼りになる生徒会長①

「先生、許してくだしゃい〜」


「だーめ」


ドアの外からそんな声がしてきて、眼が覚める。美波さんと海谷先生、相変わらず仲良いなあ……。寝ぼけ眼でぼんやりしながらそう思っていると、しばらくして突然ドアが開く。


「梅原さん、ちょっとだけ匿って!」


その声と共に、鍵を閉める音がする。みんな見知った仲だからと鍵は開けたままにしてあった。声で美波さんと分かったけれど、慌てて眼鏡をかけて確認する。すると、なぜか美波さんは水着を着ていた。その上、半泣き状態だった。


「ど、どうしたの……?」


「昨日、水着姿見せなかったから……見せろって脅されてるの」


美波さんはそう言いながら、ドアの前で三角座りをしてため息をつく。


「なんで見せたくないの?」


折角着替えたんだし、恋人同士なんだから水着姿ぐらい良いのに……なんて軽く思いながら聞くと、美波さんは顔を赤らめて言った。


「だって……恥ずかしいから……」


先生、絶対この美波さんの反応見て楽しんでいるんだろうな……。私が確信していると、ドアの外から海谷先生の声が聞こえてくる。


「結佳ちゃん、そこにいるのは分かっているのよ?」


脅すというよりは、猫撫で声のような甘い声で美波さんの名を呼ぶ。私が何か言おうとすると、美波さんは手でばつ印を作った。ここにいるのはバレているんだから意味ないのでは……と思いながらも、私はそのままベッドの上で成り行きを見守る。やがて、海谷先生は諦めたのか足音が遠ざかっていった。


美波さんはほっとしたように肩の力を抜くと、


「流石にずっとここにいるわけにはいかないし、部屋に戻って着替えてくるね。匿ってくれてありがとう!」


相変わらずの深すぎるお辞儀をして、部屋を出て行こうとする。私はふと思い立って、美波さんの後ろ姿に声をかけた。


「あ、そうだ……美波さんにちょっと相談したいことがあるんだけどいいかな?」


「ん、いーよ。生徒会長らしく、梅原さんの悩みを解決できるよう尽力するね!」


力強くガッツポーズをすると、ドアノブに肘をぶつけ蹲る。


「大丈夫……?」


「だ、大丈夫……。それより、近くのカフェでいいかな?」


「うん、お願いします」


私がぺこりと頭だけでお辞儀をすると、美波さんは意味深な目配せをして出て行った。もしかして、ちーちゃんの話だと気付いたから場所をカフェにしてくれたのかな……?それは考え過ぎかもしれないけど、とにかくあまり他の人には聞かれたくなかったから有難い。


元々姫乃か早貴に相談しようと思っていたけれど、美波さんに話すことにした。何故なら、姫乃達と話していると何だか見透かされているような気分になるから。誰のことなのかは伏せるけど、今回は現実のこともふまえて誰かに話したい。二人を除くと、美波さんならフラットに聞いてくれそうだし、真面目だし、生徒会長をしているのもあってなんとなく信頼できると思った。

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