気持ちの在り処

夏休みと海と水着と

「七瀬さん。夏休み、海に行くわよ」


ある日の帰り道、姫乃が突然そう言った。姫乃の家の別荘が海の近くにあるらしく、夏休みに海へ行くことは三人の間の恒例行事らしい。今年は私を含めて、四人で行くことになった。


「ひめちゃんの別荘、すごいんだよ〜」


ちーちゃんが瞳をキラキラさせながら言うと、那月もそれに大きく頷く。


「眺めも良いし、料理も姫乃ん家ひめのんちのメイドさんがやってくれるしな」


姫乃も珍しくうきうきしている様子で、どれだけ楽しみにしているのかが窺える。かくいう私も海へはあまり行ったことがなく、想像するだけでわくわくが止まらなかった。





「……それで、なんであの小さい方までいるのかしら」


姫乃が不機嫌そうに言うと、ちーちゃんは申し訳なさそうに苦笑する。


「ごめんね、ひめちゃん。私と七瀬ちゃんで海の話してたら、偶然志歩ちゃんが通りかかって……」


何と言うか困ったのか、一旦言葉を切るちーちゃんの後を引き継いで、


「なんか強引に話進められちゃったの」


私はあっけらかんとして言った。そんな私達の様子に姫乃はため息をつく。


「まあ、ちーちゃんのお人好しも今に始まったことじゃないし、多少は賑やかな方が良いでしょうし……そんなに気にしなくて良いわよ、ちーちゃん」


「ひめちゃん、ありがとう!」


私とちーちゃんがほっとしていると、志歩は自身の名前を聞きつけたのか駆け寄ってきた。先程まで早貴に日焼け止めを塗っていたはずなのに。また姫乃との言い合いが始まりそうだ。


「ちょっと、さっきまた小さいって言わなかった?」


「あら、そんなところから聞こえていらっしゃったの?」


志歩の甲高い声が響くと、周りにいた人達がちらちらとこちらを見ている。すぐに早貴も合流したから長引くことはなさそうだ。


海には私達四人と志歩、早貴に加え、美波さんと海谷先生も来ていた。志歩達が来ることが決まった時、ちーちゃんと私でどうせならと誘ったのだ。先に言い出したのは私で、理由はゲームのメインキャラクターが集まったらどうなるのだろうという好奇心から。これぞプレイしているだけではできないことだから、なんとなく特権を得た気分になる。


近くのパラソルでは、露出度高めの水着を着た海谷先生とがっちりと上着を着込んだ美波さんがいた。心なしか、周辺にいる男性の視線が海谷先生に集中しているように感じる。美波さんはそれを遮るように立って、


「先生、私の持ってきたこの上着着てください!」


「嫌よ。結佳ちゃんこそ、折角水着着てるのに着込んでるのもったいないわ。私に結佳ちゃんの水着姿見せて」


「嫌です。ぜーったいに脱ぎません」


「あとで私だけに見せてくれてもいいのよ?」


「それも拒否します!」


「えーなんでよー」


私がぼーっと二人のやり取りを見ていると、ちーちゃんが私の腕をつんつんとつつく。そして、無意識なのか上目遣いで私に言った。


「七瀬ちゃん、二人で泳ぎに行こ?」


か、可愛い……。あまりの可愛さに、私は胸を手で押さえながらなんとか頷くと、手を繋いで波際まで歩く。因みにちーちゃんの水着は、なんと私とお揃いだ。誘ってくれたその日に姫乃が用意してくれた。私に合ってるかどうかは置いといて、ちーちゃんにはぴったりの水着だった。胸元はフリルになっていて可愛らしく、下はショートパンツになっていて露出が少なく安心だ。さらにその上からお揃いのパーカー。ちーちゃんには過度な露出は似合わないし、このぐらいの方が可愛くて断然良い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る