波に揺られて
浅瀬で子供達と一緒にうきわでぷかぷかと浮いているちーちゃん。それを隣で見て可愛さに悶える私。二人で、と誘われた時はドキドキしたけど、こういうことね……と何故か安堵してしまう。
ちーちゃんは小さい頃から泳ぐのが苦手で、うきわで浮くのが精一杯らしい。
「七瀬ちゃん、ごめんね。折角の海なのに……誘ったのは私だけど、自由に泳いできてくれても良いからね?」
「ううん、大丈夫。だって、私はちーちゃんといるのが一番楽しいんだもん」
私が言うと、ちーちゃんはいつもの天使みたいな笑みを浮かべた。それを見て私も笑顔になると、子供達の賑やかな声と海の静かさを同時に感じた。波の揺れが心地良くて、ちーちゃんのうきわに掴まりながら頭をもたせかける。私は一体、いつまでここにいられるんだろう。揺れに身を任せながら、水平線を眺めてそんなことを思った。
「七瀬ちゃん、どうかしたの……?」
「へっ……!?な、なんでもないよ」
完全に意識が遠くなっていて、声をかけられ必要以上に驚いてしまう。那月の練習試合を見た時のような、ぼーっとしている間に時間が過ぎてしまうことはこれまでにも数回あった。これが現実からゲームの世界にきた弊害なのかどうかは分からない。それでも、奇妙な事象なことには変わりなかった。
気づけば、那月と姫乃が遠くの方からこっちに手を振っているのが見える。どうやら、こっちへ来いという意味らしい。それに気づかず、子供達が遊んでいるのをにこにこ見ているちーちゃんに肩をとんとんと叩き、伝える。
「ほんとだ〜。何かあったのかな?」
「多分、食べ物のことじゃないかなー。那月、手に何か持ってるし」
浅瀬からあがって、足が太陽の熱で熱くなった砂浜につくと、ちーちゃんが思い出したように言った。
「あ、そうだ七瀬ちゃん。今日の夜、ちょっとだけ付き合ってほしいんだけど良いかな……?」
「うん、いいよ」
「ありがとう。大事な話がしたくて……」
大事な話、と聞いて少しばかり緊張してしまう。いつも一緒にいるからこそ、改まって何か話したいなんて、きっとよっぽどのことに違いない。
那月達と合流すると、やはり昼食のことだった。志歩や美波さん達を含め、みんなで屋台で買った焼きそばやホットドッグを食べる。折角集まったからと、みんなでビーチバレーをして遊び終わると、姫乃に別荘へ案内してもらうことになった。
海から程なく歩いた所に、姫乃の別荘はあった。外観は白を基調としたモダンなデザインで、ガラス張りの壁からは海が一望できる。夕暮れの海岸には、まだちらほらと海水浴客がいた。夕日と海が溶け合うようにオレンジ色になっている光景に圧倒されていると、キッチンの方からメイドの高木さんの声がする。
「皆さん、今日はたくさんはしゃいでお疲れでしょう?腕によりをかけますので、少々お待ちくださいね」
既に志歩と早貴、美波さんと海谷先生はL字型のソファに座って寛いでいた。姫乃と那月は、案内が終わってからずっと二階の部屋に留まっている。ちーちゃんは、私の隣で同じように海を眺めていた。その瞳はどこか切なげで、いつもと違う雰囲気が漂っている。私は私で、ちーちゃんの大事な話はなんだろうとずっとそわそわしていた。
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