思い出の絆創膏

姫乃に言われたあの日から、ずっと考えていた。ちーちゃんのことも、自分の気持ちも。でもそれは、私にとって勉強よりも難しくて、最後には悶々として終わってしまうのが常だった。


今日は休日。すっかり馴染みつつある居候部屋のベッドで猫のように微睡んでいると、ドアがノックされる。慌てて起き上がると、ちーちゃんが開いたドアからひょこっと顔を出す。


「七瀬ちゃん、ちょっといい?」


「うん」


私が頷くと、ちーちゃんはそのまま自分の部屋に来るよう手招きした。なんだろう……そう思いながらも後をついていくと、ちーちゃんはにこにこしながらトランプを取り出す。よく見ると、うめねこが絵柄の特別なものだった。


うめねこはゲーム内のオリジナルキャラクターで、可愛らしいタッチで描かれた猫。その耳に梅の花があしらわれているのが特徴だ。そういえば……何故かは分からないけど、ちーちゃんの家でしか見かけないな。一応この世界では大人気キャラクターという設定だったはずなのに。


「このうめねこの絵がすっごく可愛いから、七瀬ちゃんにも見せたくて。ついでにトランプで遊ぼうよ〜」


そう言って、うめねこの絵を幸せそうに眺めるちーちゃんがあまりにも可愛すぎて、思わずゲームをやっていた頃のテンションになってしまう。


「うん、やる!ちーちゃんと一緒にトランプできるなんて夢みたい!」


言い終わってから自身の異常なテンションに気づき焦る。こんな風に現実の、第三者の視点で見ていた頃の自分に戻ってしまうから、いつまで経ってもちーちゃんへの気持ちが分からないのかもしれない。


「七瀬ちゃんったら、まるで私がアイドルみたいな言い方だね〜。私は普通の人だよ」


くすくすとおかしそうに笑うちーちゃん。良かった、引かれるほどではなかったみたいだ。そのあと私達は、二人でもできるババ抜きや神経衰弱をやった。お互いが満足するまで繰り返し、それだけで楽しくてあっという間に時間が過ぎていった。


用意してくれたジュースを飲み一息つくと、コルクボードが視界に入る。以前見かけた時から変化していた。姫乃達との写真に、私との写真や四人で撮ったものが加えられている。それと、謎の絆創膏。


「ちーちゃん、あの絆創膏って前はなかったよね……?」


「うん、最近飾ったんだよ〜。大切な人から貰った、大切なものだから大事にしまってあったんだけど……急に飾りたくなって」


大切な人……姫乃、なのかな?でも、なんで急に……?


「小さい頃にね、一度会ったきりなんだけど……私にとってはとても大切な人なの」


私の疑問を読み取ったように、ちーちゃんは呟いた。その言葉を聞いて、私は何故だか胸がざわざわする。姫乃じゃないとすると、誰なんだろう。ゲームではそんな過去の話はなかった気がする。

改めて絆創膏を見てみると未使用のようで、桜の絵が描かれた可愛らしいものだった。


大切な人……ちーちゃんにそんな存在がいたことは良いことなはずなのに。私はずっとこの世界にはいられないから……それなのに、なんなんだろうこの気持ちは。言葉では言い表せない気持ちと共に、姫乃や早貴に言われたことが頭をぐるぐると駆け巡る。


「勉強したくなってきちゃったから、部屋に戻るね」


感情を悟られないよう、わざと明るく言った。


「うん、トランプ付き合ってくれてありがとう。勉強するのはいいことだけど、ちゃんと早く寝てね?」


心配そうな顔をするちーちゃんに頷くと、そそくさと部屋に戻ってベッドに顔を埋めた。今抱いているこの気持ちの正体が分かったら、ちーちゃんへの気持ちもわかる気がする。でも、それを理解するのにはもう少し時間がかかりそうだった。

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