告げる想い

隣の相模さん

夏休みが明け、まだまだ暑さの残る中、二学期が始まった。気持ちを自覚したものの、私は未だにちーちゃんへ何も伝えられていない。覚悟は決めたはずなのに、いざ言おうとすると緊張して何も言えなくなってしまう。それに加えて、常にちーちゃんのことを意識してしまうようになった。一緒に住んでいるが故に心臓に悪い日々が続いている。


「はぁ……」


深いため息をついていると、相模さんが不思議そうに聞いてくる。


「ななせっち、どしたん?ため息なんかついちゃって」


球技大会が終わってから、相模さんは私のことをあだ名で呼ぶようになっていた。因みに、ちーちゃんのことは「ちひろっち」と呼んでいる。


「大したことないから大丈夫だよ」


言いながら、私は隣の相模さんを見た。先ほど席替えが行われて、私と相模さんは隣同士となった。廊下側の一番後ろだ。ちーちゃんとは、右端と左端でかなり離れてしまった。家で一緒にいられるからいいけれど、少し寂しい。


「だったらいいんだけど。それにしても、ななせっちの隣嬉しいな」


頬杖をついてこちらを見る相模さんに、私は首をかしげた。


「なんで?」


「だって、私前からななせっちともっと仲良くなりたいなーと思ってたんだよね。やっとそのチャンスが来たかーって感じ」


相模さんはそう言いながら照れくさそうにこめかみあたりを触っている。なんで私なんかと……と思ったけど、そんな風に思ってもらえていたのは嬉しいかもしれない。


「なら私も、相模さんともっと仲良くなりたいかも」


現実では、教室の隅っこでいつも一人だった。そんな私だから当然、相模さんみたいなタイプとは全く縁がなかった。でも、この世界の私はほんの少し世渡り上手になっているような気がする。だからこそ仲良くなりたいと思ってくれているなら私もそれに応えたかった。


「まじか。超嬉しいんだけど」


相模さんは嬉しそうにこちらへ笑いかけた。私も嬉しくなって笑い返す。現実でも、こんな風に友達ができたらいいのにな。




放課後になり帰る支度をしていると、ちーちゃんが駆け寄ってきて、


「七瀬ちゃん、一緒に帰ろ?」


「うん!」


可愛く小首をかしげるちーちゃんにときめきながら、勢いよくうなずく。


「んじゃ、また明日ねー。ななせっち、ちひろっち」


二人で並ぶ私とちーちゃんに、相模さんは笑顔で手を振った。


「また明日ね~」


私達も手を振り返すと、教室をあとにした。二人になった途端、ちーちゃんはぎゅっと手を握ってくる。もう何度も手を繋いでいるのに、相変わらずその柔らかくて暖かい感触を感じるとドキッとしてしまう。


それから、ちーちゃんは小さなため息をついた。


「どうしたの?」


「ううん、なんでもない」


 何でもなくはなさそうな雰囲気に、何も言わずじっと待っていると、ちーちゃんはおずおずとしながら言った。


「他の時は一緒にいられるんだから、欲張りだと思われちゃうかもしれないけど……七瀬ちゃんと席離れちゃったの、寂しいな~と思って」


何かあったのかと思っていたらあまりにも可愛い理由で、私は思わず廊下の真ん中でちーちゃんのことを抱きしめてしまう。私の腕の中で、ちーちゃんは驚いたのか小動物のようにあわあわしている。


「全然欲張りなんかじゃないよ。だって……私も寂しいもん」


私が言うと、ちーちゃんは動きを止めて言った。


「……良かった。私だけじゃなかったんだね」


その声のニュアンスで、ちーちゃんが微笑んだのが分かった。私がほっと安堵していると、大きめの咳払いが聞こえてくる。


「そこのお二人さん。そういうことは、人目につかない場所でやった方が良いぞ」


声の方を見ると、早貴が苦笑しながら立っていた。慌てて周りを見回すと、いつの間にか注目を浴びていた。みんな一様に、こそこそと私達を見ながら何かを囁き合っている。私とちーちゃんは、真っ赤になりながらその場を去った。

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