見えていなかったもの

あの子の気持ちは①

中間試験一週間前。私とちーちゃんは今、姫乃の家の前にいる。以前約束した勉強会のためだ。


「ひめちゃんの家は何度見てもすごいなぁ」


「すごいねー……」


ちーちゃんの声を聞きながら、私も感嘆の声を上げる。ゲームで見た一枚絵とは迫力が段違いだ。自分の身長を越すほどの大きな玄関を見上げていると、豪快な音をたてて門が開く。


「行こう」


球技大会後から私とちーちゃんの間に何も変化はない……とは言えない。一つ、手放しに喜んで良いのかどうかわからない変化があった。ちーちゃんと私は、手を繋ぐようになったのだ。一緒に移動する時は、必ずと言っていい程。


繋ぐのは、いつもちーちゃんから。繋ぎ始めたのもちーちゃんからだった。二人で帰っている時、急に何の前触れもなくちーちゃんは手を繋いできた。私は驚いてちーちゃんの方を見たけど、何事もなかったような顔をしていて、理由は聞けずじまいだった。


今も複雑な気持ちを抱えたまま、ちーちゃんの柔らかい手の感触にドキドキもしていて、感情が迷子になる。途中から二人のメイドさんに案内され、姫乃の部屋の前に到着する。道中の噴水まである広い庭園、シャンデリアまであるロビーなどもすごかったが、姫乃の部屋も典型的なお嬢様然としていて別世界に来たみたいだ。


既に那月も来ていて、二人でソファーに座っていた。


「お待たせーひめちゃん、なっちゃん」


ちーちゃんが声をかけると、二人共同時に顔を上げる。


「いらっしゃい。ちーちゃん、七瀬さん」


一冊の英単語帳を仲良く顔を寄せ合って見ていたらしい二人に、ちーちゃんはにこにこ顔だ。私はそんなちーちゃんの笑顔と繋がれた手を交互に見て、ますます混乱する。


「さ、四人揃ったことだし、勉強しましょう。教えあった方がきっと効率いいわ」


姫乃の一声で、私達は一つの机にノートや問題集を広げ、勉強会を始めた。まずは四人共、自分のやりたい教科をやって、分からないところは教え合う。そんなやり方で順調に進み、しばらくするとメイドさんがティーセットを持ってきてくれる。バルコニーに出てお洒落なテーブルでケーキと共にいただくと、お金持ち気分になれて悩みなどどこかに……いきはしなかった。

食べ終わって、今度は全員で同じ一教科を勉強し終わると、那月は庭園をジョギングしに、ちーちゃんはお手洗いへと席を外した。部屋には私と姫乃の二人きりになる。

姫乃と二人きりになるのは何だかんだ初めてだ。妙に緊張する。私がそわそわしていると、姫乃は感情の読めない表情をして言った。


「七瀬さん、少し話したいことがあるのだけど、いいかしら?」


「も、もちろん」


隣に座るよう促され、恐る恐る座る。まるで叱られる前の子供みたいだ。


「話って……」


「ちーちゃんのことに決まっているじゃないの」


予想はしていたものの、何だか気まずい。パフェを食べた時のあの視線を向けられた時から、姫乃がちーちゃんといる時の私を見る目はいつもと何か違った。


「あなた、ちーちゃんのことはどう思っているの?」

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