ライバルの二人②
ホイッスルが鳴り、私達のクラスが先にボールを手にする。運動神経の良い相模さんを筆頭に、暫く誰も当てられることなく投げ合いが繰り広げられた。そんな中、私は心臓が止まりそうなほど緊張していた。体育の授業なら自分がヘマしても誰にも迷惑をかけない。けれども、今はチーム戦。プレッシャーに押しつぶされそうになる。
それでも、隣で不安そうにボールの行方を追っているちーちゃんを見ると、何故だか冷静になっている自分がいた。むしろ、底知れない勇気が湧いてきたような気さえする。そんな時、相模さんが受け止め損ねたボールが私の足元に転がってきた。
咄嗟に拾うと、外野にいった相模さんがこっちこっちとジェスチャーを送って来る。私にしては珍しく、考えるよりも先に体が動いて即座に相模さんへパスした。ボールを手に持った相模さんは、一人逃げ遅れた女の子に加減しながらぽんっと当てる。そのタイミングでゲーム終了となり、一応私達のクラスが勝ちとなった。
私がほっと胸をなでおろしていると、ちーちゃんが駆け寄ってくる。
「七瀬ちゃん、すごい!」
「いやいや、私は何もしてないよ」
「ううん、私だったら怖くてボールも拾いに行けなかったもん。七瀬ちゃんはすごいよ」
あまりにもキラキラとした瞳でちーちゃんが褒めてくれるから、段々自分がすごいことをしたように思えてくる。昔の逃げるのみだった自分からしたら、何かしらやることができたし大きな成長かもしれない。そんな自信過剰な思いを抱いていると、ぽんっと右肩を叩かれる。相模さんだった。
「梅原さん、さっきはありがとー」
「いやいや、私は何もしてないって」
ここまでくると、ゲームの中だからって私に甘過ぎるよこの世界は。実際に一番活躍していた相模さんを前に恐縮していると、相模さんはニカッと笑って言った。
「いやだってさー、梅原さんって超絶運動音痴じゃん?なのにさっきの最高のパスだったよ」
褒められているのか貶されているのか分からないけど、全く悪気の無さそうな笑顔だから良い方に受け取っておこう。
「でも、勝てたのは相模さんのおかげだし、私が迷いなく動けたのも相模さんが合図出してくれたおかげだから……ありがとう」
「ま、次の試合もよろしくねー」
何故か急にそっぽを向いたかと思うと、さっさと行ってしまう相模さん。何か気に障るようなことを言ってしまったのだろうか。私が首を傾げていると、ちーちゃんはのんびりとした口調で言った。
「相模さん、照れてたねぇ」
「え、照れてたの?」
「うん、ちょっとだけ顔赤くなってた気がするよ〜」
相模さん、クラスでも目立つ存在なのに、私がお礼言ったぐらいで照れるなんて信じ難い。でも、ちーちゃんが嘘をつくとは思えない。相模さんの方を見ると、もう既にコートの中にいてスタンバイしていた。いつも一緒にいる松川さんと笑いあっている。
「私達も、行こっか」
「うん」
私もちーちゃんも、その後相模さんが照れていたことについて触れることは無かった。
それから、第二試合はほとんど誰も当てられることもなく、引き分けに終わり、昼休憩になると姫乃達と約束した場所へ向かう。ところが、その道中でまたもや言い合う声が聞こえてきた。
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