ライバルの二人①

球技大会当日。種目ごとに一日のスケジュールが違うため、必然的に他の種目の人とはほとんど会うことはない。姫乃はテニス、那月はもちろんソフトボール。昼食は四人で食べようと約束していた。


始まる前に開会式なる仰々しいものがあり、マイクを通して美波さんの声が聞こえてくる。はきはきと聞き取りやすい口調で明朗快活な様は、昨日の海谷先生といた時とはまるで別人だ。


開会式が終わり、それぞれが自分の種目場所へざわざわと移動する。そんな中、非常に特徴的な甲高い声と姫乃の言い争う声が聞こえてきた。私とちーちゃんは顔を見合わせ、同時に頷くと声のする方へ向かう。


「あたしの雨音様の方が格好いいんだから!」


「いいえ、私の那月の方が格好いいわ」


近づいてみると、非常にどうでもいい言い争いなことが分かった。ちっこい女の子と姫乃がバチバチと火花を散らしている後ろで、スラリと背の高い女子と那月が困惑している。

あの人たちは確か、もう一組のゲーム攻略ペアだ。雨音早貴あまねさき晴奈志歩はるなしほ。この二人に関しては、キャラ紹介を読み込んだだけでストーリーは中盤までしかプレイしていない。


「おいおい、もうすぐ始まるし人集まってきてるし辞めなって」


那月が呆れたように言うと、姫乃はじとっとした目線を、志歩はキッとした目線をそれぞれ向ける。


「私はこの小さい方の口撃からあなたを守っているだけよ?」


「あたしは、こいつが雨音様の方が格好良いって認めないから相手してやってるだけ!……ってか、さっきあんた小さいって言った?」


再び睨み合う二人を見て、周囲がため息を吐いていると、早貴は咳払いをして言った。


「皆、迷惑をかけてすまなかった。おい、晴奈行くぞ」


頭を下げると、そのまま志歩の腕を掴み引きずるように連れていく。数歩歩いたところで、ふと立ち止まると那月と視線を合わせた。


「お互い、ベストを尽くそう」


「ああ。そっちはどの種目なんだ?」


「バスケットボールだ。私はなんでも良かったのだが、クラスの皆から是非にと言われてな」


「まあ、雨音の身長なら納得の人選だ。雨音なら不得意もないだろうし」


姫乃と志歩は、那月達を自慢するように言い合っているけど、那月と早貴自体はそうでもないみたいだ。お互いの力を認め合い、同じ目線で語り合える同志のような……そんなものを数秒の会話で感じた。


ふっと静かに笑みを浮かべると、早貴はまだ騒いでいる志歩を連れて行ってしまった。興味津々で周りに集まっていた人達もそれぞれ向かうべき場所に歩いて行く。姫乃は悔やむようにため息をつくと言った。


「はぁ……。ついつい、熱くなってしまったわ。あの小さい方が近くにいるとかなりエネルギーを消耗してしまうわね……」


「全部に言い返すことないのに……私のために、ありがとな。体調悪くなったらちゃんと休んでな」


姫乃の頭を軽くぽんっとする那月に、姫乃は珍しく照れている。


「あなたが分かってくれているならいいの……。気をつけるわ」


「千尋達も、頑張れよー」


「うん、時間被ってなかったら二人のところ応援しに行くね〜」


手を振り合うと、それぞれ自分の種目場所へ向かった。隣のちーちゃんを見ると、張り切っているのが分かる。私もちーちゃんにボールが飛んできた時、盾になれるよう頭の中でイメージトレーニングする。この際当たったときに痛くてもかまわない、ちーちゃんさえ無事なら。

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