二人の約束①
私がこの世界に来て一週間が経った。特に困ることもなく、なんとか生活できている。ちーちゃんを含む姫乃や那月と四人で過ごすのも、クラスで出来た友達と過ごすのも楽しい。しかし、肝心のお相手探しは難航しつつあった。
どうやらちーちゃんは特定の誰かと仲が良いということがない。つまり、クラスメイト全員と分け隔てなく仲が良いのだ。もちろん、ちーちゃんが誰かに好意を抱いている素振りを見せることもなかった。姫乃といるときも、寂しげな表情をすることはあっても、それはどちらかというと友情として、に変化しているように私には見える。
私は恋なんてしたことないけど、少なくとも一目惚れを除いて、すぐに好きになるなんてことはないだろうと思う。そういうわけで、先は長そうだ。
「今日さ、練習試合あるから三人とも見に来てよ」
「もちろん、行くわ」
即答する姫乃に続き、私とちーちゃんも頷く。那月は嬉しそうな表情を見せると、姫乃に近づき何かしら言った。それに対して姫乃はこくっと頷き、顔をほころばせる。見て分かるとおり二人は順調みたいだ。私がゲームの世界に入る前にやっていたのは、この二人のハッピーエンドルートだから当然と言えば当然なんだけれども。
「もうすぐ中間テストだね~。七瀬ちゃんは勉強好き?」
「得意ではないけど、こつこつ問題解くのは好きかな」
この黒縁眼鏡も、ゲームのしすぎと勉強のしすぎによってかけるようになった。そういえば、ちーちゃんはゴリゴリの文系だったな。特に数字が苦手で、テスト前に姫乃と那月の二人で教えている描写があった。
「昨日の数学の授業で先生に当てられたとき、七瀬ちゃんすらすら答えてるの格好良かったなぁ。私理系教科が苦手で、特に数学はからっきしダメなの」
うん、知ってる。そこもちーちゃんの可愛い要素の一つ。え、さっき私ちーちゃんに格好良いって言ってもらえた?それだけで何だか舞い上がりそうで、自分でもおかしいと思ってしまう。ちーちゃんはあくまでも推し。ゲームの中のキャラなんだから、恋愛の好きではないはず……だ。
「そうだわ、テスト前四人で勉強会しましょう」
いつから私たちの話を聞いていたのか、姫乃はくるりとこちらを向き両手を合わせて言う。
「いいねそれ。私、多分この中で一番出来ないし助かる」
那月が同意するとちーちゃんも大きく頷いた。
「みんなで勉強したら捗るもんね。七瀬ちゃんもいい?」
「うん、私不得意な教科ないから何でも教えるよ」
これでも、現実世界では学年五位以内にいつも入っていた。不得意がないだけで突出して得意な教科もないし、一位にもなったことないから自慢できるほどではないのが残念だ。
「ふふ、頼もしいわね。じゃあ決まり。場所は私の家ね。七瀬さんもいつかお招きしたいと思っていたから、丁度いいわ」
姫乃の家……ゲームスチルではお城のような綺麗な外観と庭、バルコニーと姫乃の部屋しか見ることが出来なかった。あんな豪華な家へ行く機会なんて現実ではないだろうから、少しだけ見学させてもらいたいな。記憶に残っている絵を思い浮かべながらそんなことを思っていると、校門に到着する。
「じゃあまた、グラウンドで会いましょう」
姫乃達と別れ自分たちの教室に入ると、ちーちゃんは恥ずかしそうに言った。
「これまで言えなかったんだけど、もし良かったら勉強会以外の時……家とかでも教えてくれると嬉しいな」
「もちろん!ちーちゃんになら、いくらでもなんでも教えるよ」
私が食い気味に言うと、ちーちゃんはふふっと楽しそうに笑った。
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