五月の転校生②
「梅原さんっていうんだ~よろしくね!」
「千尋ちゃんと仲良いの?」
「ここ来る前はどこ住みだったの?」
先生がいなくなった瞬間、私の席の周りにはたくさんの女子生徒が集まってきた。女子しかいないから当たり前だけれど、私は女子校じゃないし、転校生が初めてだから非日常的で圧倒される。
私がおろおろしていると、ちーちゃんが助け舟を出してくれた。
「七瀬ちゃんね、昨日から私の家に住んでるんだよ~」
これじゃあ、ちーちゃんと仲いい子を観察するどころじゃない。女子校ってこういうものなの?それともゲームの世界だから……?
戸惑いながらも矢継ぎ早に飛んでくる質問に対応していると、あっという間に休み時間が終わってしまう。その後は、開き直って転校生の疑似体験をしている感覚を楽しんだ。
「七瀬ちゃん、人気だったね~」
放課後になって、私に話しかけてきたちーちゃんの第一声がこれだ。かけていた黒縁眼鏡がずり落ちそうになる。
「いやいや、みんな転校生が物珍しいだけだよ……。明日になったら多分普通だよ」
「そうかなぁ。きっと、七瀬ちゃんならすぐに友達出来ちゃうね」
にこっと微笑むちーちゃん。対する私は、友達という単語に言葉が詰まってしまう。現実世界では、いつも一人だったから。今日一日過ごしてきて、ちーちゃんにそう思ってもらえたなら喜ばしいことだけど、きっとそれはゲームの世界だからだ。ちーちゃんに見られいるからと、見栄を張っていたのもある。
「……前の学校では、いつも一人だったから。そう見えたのなら、きっとちーちゃんのおかげだよ」
思わず本音がぽろりとこぼれる。この世界にいる間は、私のことなんかよりちーちゃんの幸せのことだけを考える……そう思っていたのに、心配させるようなことを言ってしまった。目を合わせたくなくて、自然と俯いてしまう。そんな私に、ちーちゃんは両手で私の手を包み込むと言った。
「ここではきっと、たくさん仲良くなれるよ。それに、私が一人になんかさせないよ」
思わず目頭が熱くなっていると、私達を呼ぶ那月の声が聞こえてくる。
「行こ?」
笑顔のちーちゃんに頷くと、そのまま手を繋いで那月と姫乃の元へ向かった。
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