居候は決意する

ちーちゃんのお父さんと弟さんも帰ってきて、五人で食卓を囲む。お父さん達にも驚くほどにあっさりと受け入れられ、客間を私の部屋として使わせてもらうことになった。食事の後片付けを手伝いながら、ちーちゃんのお母さんにそれとなく尋ねる。


「どうして、見ず知らずの私をすぐに受け入れてくれたんですか?」


「千尋の友達で、千尋が家に連れてきたのなら、もう家族も同然よ。それにね、私も一目見てあなたのこと気に入ったのよ」


優しい微笑みでまっすぐに見つめられる。ちーちゃんのお母さんはゲーム内には登場しない。ちーちゃんのセリフや文字としては出てきても、その姿を絵として拝めることはできなかった。実際に会ったら、想像していた通りのちーちゃんと同じ雰囲気の優しい人で感動すらしてしまった。


後片付けを終え、改めてお礼を言うと用意してもらった客間へ向かう。すると、タイミングよく隣の部屋のドアが開いた。私と目が合うと、ちーちゃんが可愛らしく手招きする。誘われるまま、ほんの少しだけ緊張しつつ部屋の中へと足を進めた。


「七瀬ちゃんともっとお話ししたいな〜と思って、片付け終わるの待ってたの」


ベッドに腰掛けて、私に隣へ座るよう促しながらちーちゃんは言った。どぎまぎしながら腰を下ろすと、初めて見るちーちゃんの部屋に視線をさまよわせる。

クリーム色や水色、ピンクなどの淡い色に囲まれた女の子らしい部屋だった。壁にはおしゃれなコルクボードが提げられていて、姫乃や那月と撮った写真が飾られている。特に姫乃とのツーショットが多くて、ちーちゃんにとって姫乃がどれだけ特別な存在なのかを思い知る。


「今日一緒にいたひめちゃんとなっちゃんはね、私の大切な幼馴染なんだ」


コルクボードの写真達を見つめる私に、ちーちゃんは懐かしむように言った。


「ひめちゃんとは幼稚園の頃からで、なっちゃんとは中学生の頃から。二人とは沢山写真撮ってて、厳選するの大変だったんだよ」


そう言いながらも、写真達を眺める表情は嬉しそう。姫乃への特別な思いを感じさせないぐらい、三人での絆を大事にしているのが伝わってくる。


「ずっと仲良しの幼馴染って、素敵だね」


「でしょう?七瀬ちゃんとも、これからもっと仲良くなっていきたいなぁ」


ゲームをやっていた時は思いもしなかった。推していたキャラクターであるちーちゃんと、こんな風に話せるなんて。それに、突然この世界に入ってしまった私がなんとかなっているのは、他ならぬちーちゃんのおかげだ。


「出会ったばかりの私に優しくしてくれて、家にまで……本当にありがとう。これからよろしくね」


心から感謝を伝えると、ちーちゃんは天使のような笑顔で頷いた。


「うん!」


そして私は、決意する。どうにかして、現実に戻るまでにちーちゃんのお相手を探そうと。お節介かもしれないけど、どうしても私はちーちゃんに幸せになってもらいたいんだ。私はいずれ帰らなくてはいけないし、帰ることが出来る……はず。だから、私にはちーちゃんを未来永劫幸せにすることは出来ない。私が帰ってからも、ゲーム内でちーちゃんの幸せを見届けられるようなシナリオを作ってみせる。


それと……ちーちゃんが私といる時ずっと笑顔でいられるよう努力する。これが、私のこの世界での目標だ。

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