桜ヶ丘女学園へようこそ②
前に姫乃と那月、後ろに私とちーちゃんという形で二列になって、並んで歩いている。それだけでも驚くべき状況なのに、なんと私はちーちゃんの家に泊まらせてもらうこととなった。
それというのも、現実から急にこの世界に来た私は、もちろん帰る家がない。家の方向を聞かれて、流石にこれは怪しまれるかもしれないと思いながらも、帰る場所がないのだと告げた。そしたら、ちーちゃんが悩む様子もなく言ったのだ。「それならうちに泊まらない?」と。
「それにしても千尋、よく会ったばかりの奴泊めるよなー」
那月は信じられないとばかりに後ろの私をちらっと振り返る。私がいたたまれない気持ちでいると、ちーちゃんはニコニコしながら言った。
「明日から同じクラスなら、もう友達も同然だよ」
「ふふ、ちーちゃんらしいわね」
天使のような笑みを浮かべるちーちゃんに、姫乃はふふっと笑う。幼稚園からの幼なじみだからこその反応に、何故だか寂しい気持ちになる。私だってゲームのシナリオや設定を読み込んでいたんだから、ちーちゃんのことはある程度知っているはずだ。でも、どうしたって埋められない時間がある。
「ま、千尋がいいならそれでいいんだけどさ」
那月はそう言いながらため息をついた。那月とちーちゃんは、中学生からの付き合いだ。警戒されているのは、那月は那月でちーちゃんのことを心配しているからなのかもしれない。
「だ、大丈夫!私、全然怪しい者じゃないから!」
「それを本人に言われてもなー」
そんな私達のやりとりを、ちーちゃんと姫乃がくすくすと笑っている。打ち解けた雰囲気になったところで、ちーちゃんの家の前についた。
内心ドキドキしながらも、姫乃と那月に手を振る。二人の後ろ姿が遠くなるまで見届けると、私はちーちゃんの家である一軒家の門に向き直った。ゲームの背景でしか見た事のなかったこの家に、今から入ることが出来てしまう。私はごくりと唾を飲み込むと、ちーちゃんに促されるまま家の中へと足を踏み入れた。
「先にお母さんに説明しちゃうね」
玄関ドアを開けるちーちゃんの言葉とともに、美味しそうな匂いが私の鼻をくすぐる。この匂いはカレーかな。
奥へ進むと、キッチンには、ちーちゃん似の優しそうで小柄な女性が立っていた。
「ただいま〜」
「おかえり千尋。あら、その隣の子は?」
「梅原七瀬ちゃん。明日から私と同じクラスなんだけど、帰るところがないみたいなの」
ちーちゃんに紹介され、ぺこりとお辞儀をする。
「それは大変ねぇ。うちで良ければ、何日でもいてくれていいからね」
にこっと微笑むちーちゃんのお母さん。ちーちゃんが天使なら、このお方は女神なのかもしれない。だって、帰るところがないと聞いただけなのに何日でもいてくれていいなんて……有り得ないほど慈悲深い。普通、事情ぐらいは聞くだろうし、そんなに簡単に泊めてはもらえないだろう。
こうして、ちーちゃんのお母様とご対面し、さらっと居候を許可された私。なんというか……いきなりゲームの世界に入って混乱していたけど、なんとか生きていけそうだ。きっとこんなに上手くいくのは、ゲームの中だからなんだろうな。
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