第122話 元No.1の努力

「四宮ちゃん、キャバクラ苦手なのに来てくれて、ありがとうね」

「お前が来いって言ったんだろ?」

「そうだけどさ、来てくれるかは賭けだったから」


 こいつは一体どんな賭けをしていたんだ一体。


「まあ、なんだかんだ葵には世話になってるからな」


 俺はタバコの火を消して言った。


「何それ、嬉しいじゃん。もしかして、私のこと好きになっちゃったり?」

「それは無いな」

「そんなキッパリ言わなくてもいいじゃん!」


 葵は頬を膨らませて言った。

こういうの、男は弱いんだろうな。


「でも、お前と酒飲むのは楽しいな」

「それは、キャバ嬢冥利に尽きるね。四宮ちゃんの新しい会社はどうなの?」

「お陰様で忙しくさせてもらってるよ」


 葵の助言のおかげで、Whiteは女性ファンも確実に伸ばしている。

友梨にはコスメ系の案件が来るほどである。


「今度、四宮ちゃんのプロデュースしてるアイドルのライブ行かせてよ」

「もちろん、大歓迎だよ。関係者席用意するよ」


 葵はそれなりに有名人だ。

一般のお客さんと同じ席という訳にもいかないだろう。


「お二人、仲がいいんですね」


 俺たちの様子を眺めていた、もう一人のキャバ嬢あいさんが言った。


「私と四宮ちゃんはそれはもう、仲良しよ」

「腐れ縁って言うんだよ」

「ひどいなー。私、これでもモテちゃうんだぞ」

「知ってるよ。昔からそうだったもんな」


 俺が葵と始めて出会ったのはもう、5年以上前のことである。

当時は、俺はまだ大学に通っていた。


 葵は俺と同じ大学に通う先輩だった。

二日酔いで大学前の道で転びそうになっていたのを助けたのがきっかけだった。


「懐かしいね」

「ああ、そうだな」


 葵は夜の世界で成功した。

夜の世界には偏見がある人が多い気がするが、俺はそうは思わない。


 葵だって、並大抵じゃない努力をした結果が今なのだ。

こんな風だが、俺は葵の努力を見てきたつもりである。


 葵にも売れない時代というものがあった。

そこから、お客さんのことを覚えたり、美容にもお金をかけて自分を磨いた。


 同じことをやれと言われてもできるかどうかは分からない。


「お前はすごいよ」

「それは、買い被りすぎだよ。今の私がいるのは、四宮ちゃんのおかげなんだから」


 葵は急に静かな声で言った。


「ん? そうなのか?」

「そうだよ。四宮ちゃんが、大学辞めてからの活躍は私の所にも入っていたからね」


 こんな感じだが、葵はちゃんと大学を卒業している。


「四宮ちゃんの活躍を目の当たりにすれば、皆、少なからず野心を揺さぶられるってもんよ。私も、その一人ってこと」

「ありがと」


 そう言って、俺はビールを流し込む。


「まあ、湿っぽい話はここまで! 私、他のお客さんの相手もあるから、あんまり話せなくてごめんね!」

「気にすんな。また、連絡するよ」

「ありがと、楽しんでいってね!」


 葵は俺の隣から立って、他のお客さんの相手をしに向かった。

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