第121話 元No.1のバースデー

 今日、俺は新宿歌舞伎町に来ていた。

この街は昔よりは平和になっというが、まだまだ治安の悪さが垣間見える。


 酔っ払いがふらつきながら、歩道を歩く。


「いつ来ても変わらんな」


 今日、俺がここに居るのはある女の誕生日を祝うためである。

それは、元No.1キャバクラ嬢、芹沢葵だ。


 先週、電話でバースデーをやるから来てほしいと言われたのだ。

俺は、キャバクラは好きではない。


 何回かは行ったことがあるが、落ち着かないのだ。

花だけ出すと言ったのだが、出席して欲しいと懇願された。


 流石に、そこまで言われたら、嫌とは言えなかったのだ。


「ここか……」


 Clubエテルナと書かれている。

葵が自分でオープンしたキャバクラである。


 入口は花で装飾されている。

各界の有名人の花に混ざって、俺が送った花も飾られていた。


「なんだか、錚々たるメンツの中に混ざってるな」


 誰もが一度は聞いたことのある名前の中に混ざっている自分。

よくわからない感情になる。


「いらしゃいませ」


 フロントに立っているボーイが綺麗に一礼する。

その様子を見るに、きちんと教育されているのだろう。

不快な気持ちは一斎抱かなかった。


「四宮と申します。葵さんから話が行ってると思うんですが」


 葵はフロントで名乗ってくれと言っていた。


「四宮様ですね。お待ちしておりました。ご案内致します」


 店内に入ると、キャバクラらしいキラキラとした内装が広がっている。

中央にはシャンパンタワーが用意されていた。


「こちらのお席へどうぞ」


 そこはVIPルームと呼ばれる場所だった。


「お飲み物はどうされますか?」

 

 ボーイがおしぼりを渡して尋ねてくる。


「ビールで」

「かしこまりました。オーナーも参りますので、少々お待ちください」


 そう言って、ボーイがその場を離れる。

俺はなんとなく、手持ち無沙汰になり、ポケットからタバコを取り出して、咥える。

そして、ライターで火をつけた。


「今日、くらいはいいよな」


 普段は吸わないタバコだが、こういう場だと吸いたくなる。


「女の子失礼します! あいさんです!」

「失礼します」


 そう言って、俺の右側にドレスを着た女の子が座る。


「今日は、葵さんのお祝いですか?」

「まあ、そんなとこ」

「お名前聞いてもいいですか?」

「四宮だけど」


 俺の名前を聞くと、女の子は一瞬目を開いた。


「あなたが四宮さんなんですね!」

「知ってるの?」

「はい、葵さんいつも言ってましたよ。仕事ができる凄腕のプロデューサーがいるって」

「あいつ、そんなこと言ってたのか」


 どこまでおしゃべりなんだ、あいつは。


「四宮ちゃん、遅くなってごめん。久しぶりじゃん」

「ああ、久しぶり」


 そういうと、葵は空いている俺の左側に座る。


「珍しいね、タバコ」

「まあ、たまにはな」

「さては、緊張してるな。可愛いじゃん」

「やかましいわ。ワンセットで帰るからな」

「えー、もっと居ればいいのに」


 葵は軽くボディタッチして言った。

こういうことを自然にできるのはすごいなと思う。


「俺にその手は効かないぞ」

「だよね」


 そう言って、葵はニコッと笑った。

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