第114話 協力者
午後の打ち合わせも無事に終え、今日も一日が終わろうとしていた。
Whiteの名古屋遠征の話も順調に進んでいる。
「さて、行きますか」
俺は気合いを入れるようにネクタイを締め直す。
そこにジャケットを羽織って事務所を出る。
望月さんからの情報だと、外道が蔓延っているのは新宿や渋谷といった繁華街らしい。
いかにもといった感じである。
そのまま、電車に乗ると俺は新宿の駅で降りた。
さすがは一日の利用者人数が最も多い駅である。
この時間でも人で溢れている。
流石の俺でも今から行くところは少し緊張する。
「ここだったな」
駅から10分と少し歩いただろうか。
俺はとあるビルの前まで来ていた。
階段で2階まで上がり、少し重たい扉を開けた。
「邪魔するぞー」
そう言ってずかずかと中に入って行く。
「なんだ、お前」
強面の若い三人に囲まれる。
「親父さんに四宮が来たと伝えてくれ」
俺は表情を変えること無く言い放つ。
今まで潜って来た修羅場に比べればこんなもの何とも思わなくなってしまった。
「だから、テメェは何者なんだよ」
「四宮が来たと伝えれば分かる」
先ほどより大きな声を出す。
俺もここで引くわけにはいかないという意志を見せる。
「入ってくれ」
奥の部屋から声が飛んできた。
「通してもらうぞ」
三人の間を割って入って、奥の部屋へと続く扉を開く。
「親父さん、お久しぶりです」
「お前さんがまたここに来る日があるとはな」
黒のスリピースをキッチリと着こなした、壮年の男が低い声で言った。
ここまで来ればどんな相手かは想像がつくだろう。
裏社会で強大な権力を持つ男、夏目宗一郎の名前を知らない者は業界では居ない。
「今日は聞きたいことがあって来ました」
「まあ、座れや」
「失礼します」
俺はソファーへと腰を下ろす。
「それで、お前さんの聞きたいことっていうのは、最近流行っているアイドル志望の子を狙ったあれか?」
「ご存じでしたか」
「まあ、この街で動きがあれば情報は集まって来るからな」
「親父さんのところは絡んで無いですよね?」
そう言うと親父さんは笑う。
「こんな商売したらお前さんを敵に回すようなもんだろう。お前さんを敵に回したらこの街ではやっていけないだろう」
「いや、そんなことは……」
「謙遜だな。お前さん、この件は本気で潰すつもりだろ? だから俺の所に来た。違うか?」
「親父さんには全部見えているんですね。その通りです」
夏目宗一郎は俺がどういう人間なのかを知っている。
アイドルというものを利用して悪どい金儲けをしようとしたらどうなるか、考えただけでも恐ろしいと思う。
四宮渉という男の本当の怖さを知っている数少ない人物だろう。
「親父さんはどこまで掴んでいるんですか?」
「まあ、半グレ連中がやっているという所までだな。うちの人間に調べさせよう」
「お願いします」
「気にするな。お前さんの為だからな」
親父さんが含んだような言い回しをした。
「ありがとうございます。何か分かったらここに連絡してください」
俺は連絡先のメモを置くとビルを後にした。
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