第113話 四宮の敵

 翌日、事務所に出社した俺は打ち合わせの時間まで事務作業をしていた。

今日の打ち合わせは午後からな為、まだ時間には余裕がある。


「四宮くん、ちょっといいかな?」


 望月さんが社長室から顔を出すと、俺を呼ぶ。


「はい、大丈夫ですよ」


 俺は立ち上がると、社長室へと入った。


「座ってくれ」

「失礼します」


 社長室のソファーに腰を下ろすと、望月さんが俺の対面に座った。

今日の望月さんは何だか難しい顔をしている。


「どうかされたんですか?」

「いや、ちょっと業界がまずいことになっててな。今から言うことは他の連中にも言わないでもらえるか」


 望月さんはいつになく真剣な表情を浮かべている。


「わかりました。約束します」


 俺のことを信頼して頼ってくれているのだろう。

その思いを裏切るようなことはしないと誓った。


「まあ、四宮くんなら大丈夫だと思ってるんだがな」


 そこから社長はゆっくりと話始めた。


「ここ最近は減っていたんだが、アイドルデビューをチラつかせて金を搾取したり、アダルトな方への強要をしている会社があるらしい」

「なるほど」


 これは昔からそれなりにあることだ。

うちのような真っ当な事務所からしたいい迷惑な話である。

しかし、これだけでは望月さんがここまで疲れ切った表情になるとは思えない。


「それだけならまだいいんだが……」

「バックに裏組織が絡んでいるとかですか?」


 俺の言葉を聞いて望月さんが目を見開いた。


「流石だな。四宮くんの所にも情報が入っていたのか?」

「いえ、望月さんが手に負えない相手となると半グレ連中みたいな裏組織の人間かと思いまして」

「すごいな君は。そうなんだよ。どうやら、裏に大きな組織が絡んでいるらしい」

「許せませんね」


 俺は呟くような声で口にする。


 夢と希望を持ってアイドル業界に入ってきて、蓋を開けたら金の搾取とアダルト業界への強要。

とても許される行為ではない。


 青春の全てをかけてでもアイドルをやりたいという想いを踏み躙る行為だ。

俺はこの仕事に誇りを持っている。


 だからこそ、アイドルを利用して一方的に金儲けをする連中は許せない。


「この件、僕に任せてもらえませんか?」

「何とかできるのか」

「出来る、と思います」


 俺の頭の中では既に何件かのあてがあった。


「君の人脈は侮ってはいけないからな。私は今、君を雇ってよかったと心から思ったよ」


 望月さんの表情が少し柔らかくなった。


「いえ、これが事実ならいい営業妨害です」

「まあ、そうだな。この件は四宮くんに任せようじゃないか。何か分かったら教えてくれ」

「分かりました。では、失礼しま」


 俺は社長室を後にすると、仕事に戻るのであった。

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