第49話 まさかの接点
俺は美穂を自宅まで送って行った。
「ここです」
そう言って、美穂はマンションの前で止まった。
そこはいかにも高級そうなマンションだった。
「へぇ、結構いいところ住んでるんだな」
「はい、父が買ってくれたんです。基本的には放任なんですけど、女の一人暮らしは心配らしくて」
「いいお父さんだな」
まあ、娘を心配する親心というのは分からなくはない。
俺も、瑠奈が一人暮らしをすると言い出したら少しは心配するだろう。
「はい、私にとっては自慢の父ですかね」
年頃の娘にここまで言わせる父親というのは珍しいのではないだろうか。
どんな人物なのか気になってくる。
娘にマンションを買い与えるくらいだからそれなりにお金があるのだろう。
「美穂のお父さんって何やってる人なの?」
「バンナンっておもちゃメーカーって知ってます?」
それはこの国では知らないほど大手のおもちゃメーカーだ。
日本で生きていれば誰もが一度は目にすることがあるだろう。
「え、もしかして美穂のお父さんって佐藤正義さん?」
「父を知っているんですか!?」
「やっぱりかぁ」
佐藤正義、株式会社バンナンの代表取締役だ。
先代社長から会社を引き継いで、さらに会社を日本トップの玩具メーカーに導いたやり手の社長である。
「昔、お世話になったんだよ。イベントの時にスポンサーになってくれたり、集央出版を紹介してくれたのもお父さんだ」
「え!?」
美穂は驚いた表情を浮かべていた。
「俺も驚いたよ。まさか美穂が正義さんの娘さんとはね」
佐藤というどこにでもある苗字だったので気づかなかった。
顔だって別に似ているというわけではない。
「すごい偶然ですね」
「ああ、確かここに……」
俺は名刺ケースの中から『株式会社バンナン代表取締役』と書かれた名刺を取り出した。
「確かに、父の名刺です」
「今度挨拶しなきゃな。お父さんは知ってるの?」
「はい、応援してくれています。父の力は使わないつもりでしたが、四宮さんは父以上の人脈をお持ちのようですし意味ないですね」
美穂は苦笑いを浮かべていた。
「買い被りすぎだよ」
さすがの俺も日本トップクラスの社長には敵わないだろう。
人脈チートといえば聞こえがいいかもしれないがやっていることは他力本願。
俺一人では何もできないのと同じなのだ。
「それでも、四宮さんには協力するだけの魅力があるんですよ。じゃなきゃ、誰も四宮さんにはついていきません」
「ありがとうな。まあ、ここのセキュリティなら安心だな。じゃあお疲れさん」
俺はそう言って帰ろうとした。
「四宮さん、お茶でも飲んでいきませんか? 景色もいいですよ」
「せっかくのお誘いだけど今日は遠慮するよ。女の子の部屋は緊張するから」
「四宮さんも可愛いところあるんですね」
美穂はニヤッっと笑う。
「可愛いか? まあ、いいや。じゃあな」
「はい、おやすみなさい」
「うん」
俺は美穂がエントランスの中に入り、エレベーターで上がっていくのを確認すると、その場を後にするのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます