第47話 四宮の過去
俺は対面に座る美穂と話していた。
「それで具体的な被害は出ているのか?」
「いえ、今のところは特に実害は出ていません」
「なるほどな」
実害が出ていないとなると、立件できる可能性は低くなる。
警察も暇ではないので、なかなか取り合ってはくれない。
「とりあえず、今度のコンカフェへの出勤は見送るか?」
ストーカーまがいな被害が出ているなら、できるだけ交流のある露出は避けたほうがいいのかもしれないと思った。
「いえ、それは出ます。みんなに迷惑かけるし、私の勘違いかもしれないので」
美穂は力強い声で言った。
「そうか。分かった」
他のメンバーに迷惑をかけるのが嫌だから、わざわざ俺に個人的に相談してきたのだろう。
その意思は尊重してあげたかった。
「しばらくは俺ができるだけ一緒にいるよ」
「すみません、ありがとうございます」
美穂は申し訳なさそうに言った。
「いいよ。君たちを守るのも俺の仕事だからね」
男がそばに居るだけでも多少の抑止力にはなるだろう。
事務所としてもプロデューサーとしても、所属アイドルを守る義務が生じる。
「頼りになりますね」
「そうかな。とりあえず、知り合いの警察官に事情は話してみるよ」
「出た、人脈チート」
美穂に少し笑顔に戻った。
俺はその笑顔を見て少し安心した。
「ねえ、四宮さんってどうしてプロデューサーになったんですか?」
「昔の話になるだけどね」
俺はまだ大学生の頃を思い出した。
俺は3年の春に大学を辞めた。
それは勉強が嫌になったというかそういうわけではない。
この大学に通っている意味を完全に見失っていたのだ。
そんな時である。
俺はとあるアイドル志望の女の子に出会った。
まだ全然売れていなかったその子は必死にアイドルの活動していた。
そんな姿が俺の支えとなった。
そして、俺は解雇された会社の先代社長に出会った。
先代はまだ若造だった俺を育ててくれた。
「四宮、今のうちに人脈は作れるだけ作っとけよ!」
それが先代社長の教えだった。
社長はパーティや交流会に連れて行ってくれた。
それが、俺の今に繋がっているのだ。
「へぇ、四宮さん大学辞めてるんだ」
「うん、あんまり自慢できることじゃないから言ってなかったけど」
「その先代さんはいい人だったんだね」
確かに、育ててくれた社長は人格者であった。
「四宮さんの人脈チートも少し納得したわ。まだまだ納得できないことはあるけど」
「そりゃどうも。そろそろ帰るか? 送ってくぞ」
茜色だった空はいつの間にか暗闇に変化していた。
「うん、ありがとう」
俺は伝票を持って会計へと向かう。
「ここは奢るよ」
「え、でも……」
「女の子なんだから黙って財布しまって待ってな」
そう言うと、俺は早々に会計を済ませてしまった。
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