第46話 忍び寄る影

 資料をまとめ終わると俺は大きな伸びをした。

社長室からはまだ明かりが漏れていたので、望月さんは仕事しているのだろう。


 社長というのも楽では無いのだなとつくづく感じる。


「社長、僕はそろそろ帰りますよ」


 俺は社長室に居た望月さんに声をかけた。


「ああ、お疲れさん」

「社長も無茶はダメですよ。もう若く無いんですから」

「そうだな」


 望月さんは苦笑いしながら言った。


「では、お先に失礼します」


 俺はそう言うと事務所を後にしようとした。

その時、ポケットに入れたスマホが振動した。


「美穂か」


 スマホのロック画面には美穂の名前とメッセージが表示されていた。

珍しく、グループチャットでは無く個人チャットである。


『今から会えない? ちょっと相談したいことがあるんだけど』


 わざわざ個人で連絡してくるということはそれなりの理由があるのだろう。


『大丈夫だけど、どこに行けばいい?』


 俺は美穂にメッセージを返信した。


『ここのに居る』


 美穂は喫茶店のリンクを送ってきた。

俺はそのリンクを開くとお店の場所を確認する。


 そこは、電車で20分ほどの距離にあった。


『30分で行く』


 駅までの時間も考えたらそのくらいは必要なのではないかと思う。


『ありがとう』


 美穂からの返信を確認すると、駅に少し急ぎ足で向かった。


 そこから、電車に乗り20分ほど揺られて美穂が居る最寄駅へと到着した。


『今、駅に着いたから向かう』


 俺は美穂にメッセージを送ると、マップを頼りに目的の喫茶店へと向かう。

そして、歩く事5分ほどで目的のお店に到着した。


「いらっしゃいませー」


 店内に入ると若い女性の店員さんが出迎えてくれる。


「待ち合わせなんですけど」

「店内、お探し下さい」


 待ち合わせの旨を伝えると、店員さんは言った。


 店内を見回すと、奥のテーブル席で美穂の姿を発見した。

今日はゆったりとしたシャツとスキニを合わせていた。


「お待たせ。ごめんね、遅くなって」

「いえ、私の方こそ急に呼び出したりしてすみません」


 美穂は軽く目を伏せて言った。

そして、俺はアイスコーヒーを注文した。


「いや、構わないよ。どうせ帰る所だったし」


 ここは自宅最寄り駅から遠いという訳ではない。


「ありがとうございます」

「それで、相談っていうと?」

「これ、私の勘違いかもしれないんですけど」


 美穂はそう前置きをして話し始めた。


「最近、よく視線を感じるんです。帰り道も誰かに付けられているような……」

「なるほどな」

「驚かないんですか?」

「まあ、驚いたというか遂に来ちまったかって感じだな」


 この業界でガチ恋やらストーカーやらは付き纏う。

ガチ恋を拗らせるとそれがやがてストーカーと化す事が多い。


「誰かに話したか?」

「いえ、まだ確信が持てなかったので」

「そうか。怖かったな」


 俺は優しい声で言った。

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