第36話 秘めた想い

 俺は手帳をでスケジュールを確認していた。


「多分、空いてるな」


 俺は仕事以外をほとんどしてこなかったので友達という友達も居ない。

自分で言ってて悲しくなるが、休みの日は基本的家で寝ているくらいだろう。


「じゃあ、私に付き合ってもらえませんか?」


 莉奈が恐る恐る聞いてきた。


「うん、いいよ」

「え、いいんですか?」


 俺としては、別に断る理由などはどこにも無かった。


「どうせ暇してるだろうしな」


 家に居ても結局は仕事のことを考えてしまうので、外に出るのはいい事かもしれない。


「あ、ありがとうございます」

「どこか行きたい所でもあるのか?」

「それは、今度メッセージします」

「はいよー」


 まだ来週までは時間がある。

それまでには連絡くれるという事だろう。


「じゃあ、他に無かったら今日は終わろうか」

「分かりました」


 時計を見ると、大体2時間くらいは話した。

まあ、いつも打ち合わせはこのくらいかかることはざらにある。


「気を付けて帰ってねー」


 事務所の下までメンバーたちを見送りながら言った。


「ほんと、四宮さんは仕事以外は鈍いわよねー」


 美穂が歩きながら言った。


「それは私も思います。いい人なんですけどね」

「鈍感、ですよね」


 莉奈は小さくため息を付いた。


「でも、良かったじゃん。四宮さんを休日に誘えて」

「デートですよ! デート」


 美穂と友梨は微笑みを浮べていた。


「でも、四宮さんは絶対デートに誘われたとか思ってませんよ……」

「だろうねえー」

「鈍いですから」


 中々酷い言われようだが、彼女たちが言っていることも事実ではあったりする。

四宮は基本、仕事以外の所は意外とポンコツだったりする。


「でも、一歩前進じゃん!」

「ですです!!」

「まだまだ先は長そうですけどね」


 Whiteは事務所的に恋愛禁止という訳では無い。

しかし、関係者となると話は少しややこしくなる。


「でも、四宮さんこれからアイドルの現場とか行ったら絶対モテますよぉ」


 莉奈は不安を交えながら言った。


「まあ、26にしては無駄にイケメンだからねぇ」

「大人の男性って感じです」


 アイドルをやっていると、出会いは少なくなる。

男性と話すのもファンの日とかクライアントなどの大人だ。


 四宮みたいな男はこの業界の女の子には人気が出るルックスをしている。


「モテそうだけど、四宮さんは興味なさそうでしょ」

「でも、可愛い女の子にちやほやされたら……」


 莉奈は少し目を伏せた。


「心配しすぎだって。四宮さんが私たちを見捨てるなんて事は絶対ないでしょ」

「うん、そうだよ!」


 四宮渉はWhiteを業界のトップにすると約束した。

最初は机上の空論かとも思ったその言葉。


 しかし、四宮の背中を見ているのその言葉が現実的なものになったのであった。

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