第14話 四宮、本気の営業

 エレベーターは3階に到着した。


「四宮さんですね。私、編集をしております沢村と申します。こちらにどうぞ」


 20代前半と思われる女性の編集さんが応接室に案内してくれた。


「こちらで少々お待ちください。編集長がもうしばらくして参りますので」


 そう言うと、沢村さんはその場を後にした」


「とりあえず、座って待ってようか」


 俺たちは椅子に腰を下ろして待っていた。

しばらくすると、応接室の扉が開かれた。


「お待たせしましたー」


 その声が聞こえて来るのと同時に俺とWhiteのメンバーは立ち上がった。


「改めまして、週刊少年ブレイブで編集長をしております福田と申します」


 福田さんはWhiteのメンバーに名刺を手渡した。


「頂戴します」


 そう言って、メンバーたちは名刺を受け取っていた。


「私、株式会社フルムーンでチーフプロデューサーをしております四宮と申します」

「ほう、四宮さん会社変わられたんですね」


 福田さんが俺の名刺を受け取りながら言った。


「そうなんですよ。ちょっと色々ありまして」

「でも、チーフとは出世しましたね。どうぞ、座ってください」


 そう、促されて俺たちは椅子に腰を下ろした。


「お茶、よかったらどうぞ」


 ペットボトルのお茶を人数分用意してくれた。


「ありがとうございます。いただきます」

 

 俺はそのペットボトルを受け取った。


「では、早速ですが今日のご用件についてお伺いさせていただきます」


 福田さんは真剣な面持ちで口にした。


「はい、今回は弊社に所属するアイドル、Whiteのメンバーを御社の刊行する週刊少年ブレイブのグラビアページに使っていただけないかと思い、そのご提案に参りました。こちらが、Whiteに関する参考資料です」

「拝見します」


 福田さんは俺の提示した参考資料をマジマジと眺めていた。

そして、しばらくして口を開いた。


「四宮さんですから、言わせてもらいますけど掲載は難しいかもしれません」

「というと?」

「実は、ユメミヤの掲載が決まりつつあるんですよ」


 福田さんは言いづらそうに言った。


「それの何が問題なんです? 今日は使ってもらえるまで帰りませんよ?」

「以前の担当アイドルと同じ雑誌というのは角がたちませんか?」

「私としては、逆にチャンスだと思いますけどね」


 同じ雑誌にあのユメミヤが載る。

そこにまだほとんど無名のWhiteを出せればかなり同じ土俵で戦える。


 俺としてはここで引くわけにはいかなかった。


「うちのメンバーもルックスなら負けてませんし、SNSでもそれなりの成果を上げています。御社に損害を被るようなことはないと思っております」

「そうでは、あると思いますが。検討してもよろしいですか?」

「ここで、答えをください」


 ここで検討しますと言われたら十中八九答えはノーで返って来る。

これは俺の経験則であった。


「分かりました。そこまで本気なら載せましょう」


 福田さんは悩み抜いた末に決断した。

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