第15話 仕事を取りました

 俺の熱意が伝わったのか、福田さんは決断してくれた。

ちなみに、俺は2時間ほど粘っていた。


 メンバーたちからは大丈夫なのかよ、という目を向けられていた気がする。


「来月の一週目のグラビアページということでどうかね?」

「二週間後ですね。それでお願いします」


 俺は手帳を開いてスクジュールを確認しながら言った。


「では、撮影などの詳細はこちらから改めて連絡します」

「承知しました。ぜひ、よろしくお願いします」


 俺は頭を下げた。


「もう、分かりましたから頭上げてくださいよ。私が悪いことしたみたいじゃ無いですか」


 福田さんは苦笑いしながら言った。


「では、今日はここまでということでよろしいか?」

「はい、大丈夫です。我々はこれで失礼させていただきます」


 俺たちは椅子から立ち上がった。


「分かりました。四宮さん、あまり無茶はしない方がいいですよ」

「それは忠告ですか?」

「まあ、どう捉えてもらっても」


 一瞬、俺と福田さんの間にどす黒い何かが流れた気がする。


「まあ、この業界の闇は嫌というほど見て来ました。今更言われなくても承知しているつもりですよ」

「それならよかった。引き続きよろしくお願いしいますよ」

「こちらこそです」

 

 そんな挨拶を交わすと、エレベーターに乗って一階へと降りた。

エントランスの総合案内で通行証を返すと、集央出版を後にするのであった。


「四宮さん、いつもあんな風にやってるんですか?」


 出版社を出たところで莉奈が俺に尋ねて来た。


「あんな風って?」

「使ってくれるまで帰らないって、何時間も粘って」

「まあ、いつもって訳じゃないよ」


 基本的には上手く話が進んでくれるか最初から門前払いされるかだ。

しかし、福田さんみたいなタイプは粘ればいけることもある。

どうしても通したい企画は粘ってなんぼな所がある。


「もう、帰りましょうよって何度言おうと思ったことか」


 美穂が少し呆れ気味に言った。


「でも、結果的には粘ってよかっただろ?」

「まあ、そうでけど」

「私は、四宮さんのことすごいと思います!」


 友梨が目をキラキラさせて言った。


「難しいって言われても、私たちのために立ち向かう姿はカッコ良かったです!」

「んな、大袈裟な」


 俺も企画を通すことに必死になっていただけなのである。


「何か、粘ったら腹減ったなぁ」

「粘ったのは主に四宮さん一人ですけどねー」


 美穂が横目に見てきた。


「でも、お腹空かない?」

「「「すいた」」」


 3人の声が重なった。


「じゃあ、飯行くかー。初グラビア祝いに奢ってやるよ。高いものはNGだがな」


 俺は笑いながら言った。


「何食べたい?」

「「「焼肉!!」」」


 またしても3人の声が重なった。

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