壁を作れという。


 都から遠く離れた辺境の村まで役人がやって来た。

 村人を集めて言うには北の遊牧民に備えるため、森を切り開き、高い壁を作れとのお達しであった。


 兵役を除くすべての税が免除される代わりに、できなければ村人全員が罰せられるとのことだった。

 その時、私は十五であった。


 まずは森の木々を伐採し、ひらとしなければならなかった。

 子供の頃から、きのこや木の実を採り、たきぎを拾っていた森に手をつけるのは悲しかった。

 しかし、村人の命がかかっていたので、それは仕方のないことであった。


 森を平地にしたあとはレンガを作っては積み、作っては積みを繰り返した。

 その間に私は結婚して子供をつくり、両親の最後を看取った。


 毎日毎年、あるときはレンガを作り、あるときはそれを積んだ。

 レンガの壁はどこまでもどこまでも東西に延びて行った。


 生きている限り、その作業は続くと思われたが、私が三十五のとき、都から来た役人の命令であっけなく終わった。


 北の遊牧民との間でぼくが結ばれ、その証として壁を取り壊すことになったと役人が告げた。


 その日から私は壁を壊す作業に従事したが、東西に長く延びていた壁を平地に戻すのに五年の歳月がかかった。

 私はじゅうになり、髪に白いものが混じりはじめていた。

 それから私は、くわを手に持ち、畑を耕して余生を過ごした。



 ある日、私は吐血をして自分の死期を悟った。

 すると無性に壁の跡地が気になりはじめた。

 杖の助けを借りて私は丘に登った。


 丘から壁の跡地を眺めてみると、子供のころと変わらない、うっそうとした森が広がっていた。

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