佐助じいの話
変わった話を聞きたいとか。
それでしたら、
山から下りて来た佐助じいから、じかに聞いた話でございます。
このじいさんの
この壁の毛皮を見てくださいませ。
ずいぶんと大きい猪でしょう?
佐助じいにもらった逸品です。
こんな立派な猪を仕留めるため、さぞ子供の時分から、修業を重ねてきたのかと思いきや、このじいさん、生まれは
それがなぜ、海を離れ、信州の山奥に住むようになったのか、いまからお話いたします。
ある夜、佐助じいが船内で寝ていると、見張りの大声で起こされました。
どうしたのかと思い、一緒に寝ていた仲間たちと外に出てみますと、見張りが満天の星空の一角を、指さしておりました。
佐助じいも仲間にならい、指さすほうを見上げてみますと、夜空に、赤い線が引かれていたそうです。
赤線は少しづづ伸びていき、途中で進む方向を三度変え、星空を切り取るように囲みました。
船乗りたちが、念仏を唱えながら様子を見ておりますと、やがて、ひらひらと紙が舞うように、切り取られた星空が、海に落ちてきました。
それから、その切り取られた星空が、どうなったかと申しますと、ふろしきを包むように丸くなり、やがて、クジラに変じました。
体を星で輝かせながら、クジラは、佐助じいの乗った船から離れて行きます。
すると、
船乗りたちが賛同するなかで、ひとり反対した佐助じいは、小舟に乗せられました。
佐助じいを置いて、船はクジラのあとを追って行きました。
どうにか、佐助じいは村に戻れましたが、結局、船長たちはそれきりで、村に帰ってはきませんでした。
佐助じいは、起きたことを村人に話しましたが、だれも信じてくれませんでした。
ひとり生き残った佐助じいに対する、村人の視線はきびしく、それに耐えきれなくなった佐助じいは、村を出ました。
そして、日の本でいちばん海から遠い、この地に越してきました。
そのクジラの正体ですか?
さあ、あやかしのたぐいだとは思いますが、手前にはわかりかねます。
手前よりも、あなたさまのほうが、この手の話は、お詳しいのでは?
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