第7話 月夜の鬼ごっこ

 町のみんなはわたしや吸血樹ヴァンパイア・ウッドに血を吸われて不知死の魔物アンデッド・モンスターになったんだから吸血鬼ヴァンパイアの仲間なんだけど、雰囲気的にはゾンビのほうが近い感じなのよね。

 腐ったり干からびたりしているし。

 一応、スリサズちゃんの血を吸おうとして、せまい教会の中を追いかけ回してはいるけれど、明確な意志とか追い詰める知恵みたいなものは持っていないわけだし。

 ただ数が多いだけ。


 それに比べるまでもなく、スリサズちゃんの戦いっぷりは美しかったわ。

 今までにわたしを倒しに来たどんな冒険者さんよりも鮮やかで、氷魔法が月光にきらめいて。

 時折わたしのほうを悲しそうな瞳で見てくるのも、もう、たまらない。

 その間も空から木の葉が降りそそぐの。

 ゾンビたちを氷の刃でなぎ倒して、だけどゾンビはどんどんどんどん集まってくる。

 いつまでも見ていたかったけど、戦いは長くは続かなかった。


 教会の窓を破って外に飛び出したスリサズちゃんは、教会が建つ丘の斜面に魔法で氷の筋を作って、板切れをソリにして器用に滑り降りて去っていった。

 ゾンビたちはスリサズちゃんを追おうとして氷に乗っかって、でもスリサズちゃんみたいに上手に滑れなくって、ひっくり返ってぶつかりあった。



 月光に照らされた町は、枯れ葉のドームに昼夜なく覆われていたころよりも明るくて、だけどスリサズちゃんの姿はすぐに見えなくなった。

 わたしはスリサズちゃんが残した氷の筋をうっとりと眺めながら、氷の脇の道を慎重に下りていった。


 丘のふもとはゾンビの群れで大混雑で、その中にイールさんが居た。

 みんな喪服なのにイールさん一人だけが、まるでデートにでも行くみたいなおしゃれをしていて、わたしは何だかムッとなってしまった。

 町のみんなが死んだのはわたしのお葬式の日で、だからみんな喪服。

 イールさんはみんなよりも少しだけ長く生きてたわけだけど、それにしたってどうしてそんなに浮かれた服装をしているの?

 一人だけみんなと違う服を着ているのって、不格好だわ。


「グ……ギ……ガ……」

 イールさんの唇が動く。

 何よそれ? わたしの名前を呼んでるつもり?

 わたしはジュディアよ!

 グギガじゃなくてジュ・ディ・ア! 


 わたしは高くかかげた右手を、イールさんに振り下ろした。

 別にひっぱたいてなんかいないわ。

 触れてもいない。

 手で示しただけ。

 それでじゅうぶん。

 あとは周りのゾンビの群れが、イールさんに躍りかかって、手足を引きちぎってバラバラに投げ捨てるだけ。


 あ。イールさん、まだモゾモゾと動いてる。いもむしみたい。

 たしかゾンビを殺すのには脳をつぶせばいいんだったかしら?

 前にスリサズちゃんがそんな風に言っていたような……

 でもこれ、わたしが勝手にゾンビって呼んでいるだけで、種類としては吸血鬼ヴァンパイアなのよね。

 んー?

 めんどくさいし、ほっときましょう。

 どうせ朝には陽光で焼かれるわ。


 良く考えたらわたしもみんなと違う服だけど、わたしはお葬式の主賓だもの、別にいいわよね?

 みんなは黒い服で、わたしは死者の白い服。

 それよりも、早くスリサズちゃんを捜さなくっちゃ!

 楽しい楽しい鬼ごっこ!

 こういう遊び、わたしずっと憧れてたの!


 おっと、いけない。その前に、わたしの首を何とかしなくちゃ。

 こうして手で押さえているままじゃ、スリサズちゃんを捕まえても、ぎゅっと抱きしめられないわ。

 首をもとの位置にあてがって、えい! えい! っと力を込める。

 首と胴体、両方の切れ目から、根っこのようなものが生えてきて、絡み合って固定された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る