第4話 あの人の秘密

 わたしのお屋敷うちの、イールさんが泊まっていたお部屋。

 勝手に入るのはいけないけれど、満月の夜にイールさんがよみがえるまで待ちきれなくて。

 誰も居ないってわかっていてもドキドキしながら、わたしはドアを小さく開けて、隙間から中に滑り込んだ。

 そもそも何を探せばいいのかもわかっていなかったのだけど、それはすんなり見つかった。

 イールさんの日記。

 机の上で開きっぱなしになってる。

 プライベートなのじゃなくて、イールさんがおこなっていた魔法の研究について書かれているの。

 イールさんも魔法使いだけど、スリサズちゃんや昨日のおじいさんみたいに杖から氷や雷が飛び出すのとは違うタイプで、魔法陣を使うの。

 夏場にわたしの部屋にかけていた冷気の魔法は、カーペットを剥がして床板に直接、魔法陣を描いて、魔力を込めたものだったわ。


 日記にはわたしにかけた・・・・・・・魔法について、しっかり記録されていた。

 わたし、ちっとも知らなかったんだけど、イールさんってもともとこの町の出身だったみたい。

 それで昔からわたしのことを知っていたの。

 町長の娘ですものね。

 なのにわたしは町のみんなを全然知らなくて、何だか申しわけないわ。


 ええと、イールさんは子どものころ、パパがわたしのために魔法使いを雇っているのを見て、自分も魔法使いになろうと決意して修業の旅に出て、一人前になったと思えたので戻ってきて、タイミング良くスリサズちゃんの後釜に収まった、と。

 あらあら、よその町にはうちよりもお金持ちの雇い主なんていくらでも居そうなのに、そうでもないのかしら?

 そうしてわたしの様子を近くで見て、このまま生き長らえさせるのは難しいと判断して、死んでから生き返らせる方法を模索した。


 ヒントはわたしの言葉の中にあったの。

 スリサズちゃんが退治した吸血樹ヴァンパイア・ウッド

 夏が過ぎてお屋敷での仕事が終わってすぐに、イールさんは話にあった土地に向かった。

 吸血樹ヴァンパイア・ウッドは高級木材に紛れて立っていて、遠くから小枝の矢を飛ばしたり、地面から根っこの槍を生やして攻撃してきて、本体を見つけるのに苦労したってスリサズちゃんが言ってた。

 それってつまり、周りの高級木材と見分けがつかない、見た目だけは同じ種類の木だっていうこと。

 だからイールさんは、もしやと思って調べてみて、そうしたら大当たりだったの。


 スリサズちゃんがやっつけた吸血樹ヴァンパイア・ウッドは、ただ動かなくなっただけなのに死んだって見なされて、本当は聖職者がお炊き上げみたいなことをしなくちゃいけないのに、それをする前に悪い人たちに持ちさらわれて、普通の木材として闇で売り払われてしまっていたの。

 イールさんは密売業者のルートをたどって吸血樹ヴァンパイア・ウッドを発見、購入。

 それを専門の大工さんに持ち込んで、棺に加工してもらったの。

 その棺にさらに、イールさんが自分の血を使って魔法陣を描いた。

 うん。わたしの死体は、その棺に収められたの。

 だからわたしは吸血鬼ヴァンパイアになったのね。

 謎が解けてスッキリしたわ。


 そういえばイールさん、わたしが血を吸ったあとの遺体は、教会の前で野ざらしになってるのよね。

 あれじゃあよみがえっても、ゾンビの中でも特にボロボロなひどい姿になっちゃうんじゃないかしら?

 ちょっと気の毒なことしちゃったわね。

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