寄宿制学園の身近な先輩

 俺の名前は秋山純。ごく普通の中3男子!

 ちょっとばかりみてくれが超絶美少女なだけ。


 志望校の名は片久里学園高等部。通称、片高。

 調べて知ったんだけど、いろいろと噂の絶えない学園だ。

 昨年までは女子高だったらしい。



 入試の日、早朝。内申がなくて片高を受験することになった俺。

 誰の手も煩わせないって決めた。荷物も独りでまとめた。

 受験票に筆記用具にパンツにパジャマ。それから雨傘……。


 たかが受験に大荷物って思うかもしれないが、それは違う。

 AIを活用した入試は、終了3分後には合格発表する。

 合格したら即入寮というのが寄宿制である片高の決まり。


 だから大荷物で試験会場に行かなければならない。

 緊張と不安からか、荷造りする俺の手はいつになく遅い。

 そんな俺の様子を母さんが見に来た。


「純ちゃん、随分と大袈裟ね。手ぶらで充分なのに」

「合格したら即入寮なんだ。シャツとか、諸々支度しないと」

 何も知らないんだろう。黙っててくれ!


「全て寮で手配できるわよ。しかも無料!」

「ウソッ、マジ?」

 何で知ってんの? 本当だったらうれし過ぎる。


「うーん、少なくとも25年前はそうだった」

「えっ?」

 25年前って?


「私が受験した頃のことよ」

「母さん、受験したの?」

 片高は創立1000年の伝統高。母さんが受験していても不思議じゃない。


「したわよ。母さんね、内申なかったから。面接しかない片高にしたの」

 知らなかった。一生懸命勉強したのに、面接しかないとは。がっかりだ。

 面接内容のこととか教えてもらおうかな。


 噂では片高の卒業生はその後の人生で願いが叶うという。

 今の我が家の暮らしはド中流。さては……。


「で、合格したの?」

 片高は倍率400倍の難関高。母さんが受かったとは信じ難い。


「したわよ。即入寮なのにはさすがの母さんも驚いたわ」

 ス、スゲーじゃん。普通にスゲーじゃん! 羨ましいじゃん。

 母さんはどんな願いを叶えたんだ? まさか、ド中流の暮らし?


「卒業生は願いが叶うっていう噂、知ってる?」

 そんな噂を本気で信じてるって思われるのは恥ずかしい。

 けどガセネタかどうか、卒業生の言うことを参考にしないと。


「卒業するまで知らなかったわ。でもそれって、首席だけの特権よ」

「えっ! そうなの。全員じゃないの……」


「さすがにそれはない! でも、首席になれば願いが叶うのは本当よ」

 マジかぁー! 入学して首席になれば、俺の願いも叶うのかぁー。

 俺はつい頬を緩ませてしまう。俺にだって普通に願いがある。


 普通にカノジョがほしい。普通に恋愛したい。普通にしたい。


 首席の特権なら首席になればいい! 簡単?

 ま、世の中そんなに甘いはずはないが……。

 けど一応、俺は表情を整え真剣に母さんに聞く。


「俺、首席になれっかなぁ」

「うーん。純ちゃん、正直だからなれるかも」

 たしかに俺は正直。バカがつくって1つ下の妹によく揶揄われた。


「何だよそれ。揶揄ってんのか?」

「そうじゃないの。片高は正直者が馬鹿を見ないシステムなのよ」

 正直者が馬鹿を見ないって、どういう仕組みだ? 気になる。


「そんなシステム、あんのか」

「それがあるのよ。母さんが首席だったのが証拠ね!」

 たしかに母さんは正直。俺に輪をかけてって1つ上の姉がよく言ってた。


 俺には俺なりに、思春期特有の悩みがある。

 嘘をつかないまでも隠し事の2つや3つは抱えている。

 その点、母さんは単純。悩みがない分、俺より正直。


 ってゆうか、今、しれっとすごいこと言ったぞ!


「母さん、首席だったの?」

「もちのろん!」

 どや顔ひとつしないけど、信じていいのか?


「で、ど、どんな願いを叶えたの?」

「たしか3つ。まずは『晩のおかずが普通の家庭より2品多い生活』と……」

 ちっさーっ。もっと大きな願いはなかったのか?


 噂だけど、片高を卒業して某国の大統領になった人がいるとか。

 俺は信じちゃいないけど……。


「それから……あっ、そうそう……」

 お次はどんな普通な願いを叶えたんだ? スカッとする願いを期待する。


「『超絶美少女な3人娘に囲まれる生活。あ、やっぱ1人は男でいい』よ」

 な、なるほど、なるほど。よーく分かった。

 どうやら、俺の悩みは全部母さんのせいだったみたいだ。


 俺の見てくれが超絶美少女なのは、全部こいつのせい!

 何が『あ、やっぱ1人は男でいい』だ。とんだうっかりさんだ。

 願いが叶ったら超絶美少女な男がどんだけ悩むか考えたこともなかろう。


「3つ目は……まだ叶ってないから、口に出せないかな」

 っ、勿体ぶりやがって、チクショー!


 これ以上、母さんとはなしても腹が立つばかりだ。

 俺はとっとと家を出ることにした。


「じゃあな!」

「純、そんなにつれなくすると、お風呂抜きの刑にするわよ」


 お風呂抜きの刑は古くから秋山家に伝わるおしおき。

 他にもくすぐりの刑やご飯抜きの刑、ふとんむしの刑などがある。

 お風呂抜きの刑なんて、正直、大したことない。大したこと、ない……。


「行って参ります、母上」

 俺は念のため言い直す。お風呂抜きの刑を恐れているわけじゃないけど。


「いってらっしゃい。志望動機は正直に言うのよ!」

 こうして俺は独り、片高指定の入試会場へと向かった。


 その途中、見慣れた顔に出会った。

________________________

 お風呂抜きは厳しいです。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

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