かっこでくくります(秋山希視点)

 秋山希、40歳です。最近、息子の純ちゃんが変です。おかしいんです。

 たかが受験にカリカリしています。非行に走ったら最悪です。

 あってはならないことです。母さんの計画が水の泡です。


 カリカリの原因を探るために、純ちゃんの大親友とはなします。


「ねぇ、ひかるちゃん。最近の純ちゃん、なんだかおかしいんだけど」

「おかしいのは僕の方ですよ。秋山くんにふられましたし……」


 詳しく聞いたら、びっくりです。

 純ちゃんったらひかるちゃんのこと男の子だと思ってるようです。

 これはまずいです。母さんの計画は、2人が付き合わないと成立しません。


 ここはひとつ、ひかるちゃんに頑張ってもらいましょう。


「ひかるちゃん、ここは耐えどころよ。不言実行よ!」

「随分と古い考えですね。いまどき、猫も杓子も有言実行なのに」

 たしかにそうです。ひかるちゃんの言ってること、間違ってません。


「でもね、純ちゃんはひかるちゃんが男の子でも好きだと思うの」

「どう考察したらその結論になるんですか? ふられましたし……」


「純ちゃんも片高に行けば、真実の愛とは何かが分かると思うの」

「だといいんですけど……」

 ひかるちゃん、まだ半信半疑みたい。


 こうなったら、純ちゃんともはなしておかないとです。




 入試の朝。純ちゃんの部屋。支度の真っ最中にはなしかけます。


「純ちゃん、随分と大袈裟ね。手ぶらで充分なのに」

 たかが受験にパンツはいりません。常識です。

 鉛筆を尖らせることの方が重要です。あ、片高ならそれも不要です。


「合格したら即入寮なんだ。シャツとか、諸々支度しないと」

「全て寮で手配できるわよ。しかも無料!」

 学園の生徒はみんな優しいです。全部もらえます。


「ウソッ、マジ?」

「うーん、少なくとも24年前はそうだった」


 あれれ、25年前でしょうか。もう分からなくなりました。

 母さん、永遠の17歳ですから。


「えっ?」

「私が受験した頃のことよ」


「母さん、受験したの?」

「したわよ。母さんね、内申なかったから。面接しかない片高にしたの」

 当時の母さんにとっては、とってもおいしい入試です。


「で、合格したの?」

「したわよ。即入寮なのにはさすがの母さんも驚いたわ」

 当時は何も知りませんでした。募集要項なんか読みませんでした。


 純ちゃん、母さんに興味を持ってくれたみたいです。


「卒業生は願いが叶うっていう噂、知ってる?」

「卒業するまで知らなかったわ。でもそれって、首席だけの特権よ」

 しかも、たったの3つまでしか叶いません。片高はケチです。


「えっ! そうなの。全員じゃないの……」

「さすがにそれはない! でも、首席になれば願いが叶うのは本当よ」

 2つは本当に叶いました。残る1つも来年には叶います。計画通りです。


「俺、首席になれっかなぁ」

「うーん。純ちゃん、正直だからなれるかも」

 なれます。そうでないと計画が崩れます。


「何だよそれ。揶揄ってんのか?」

「そうじゃないの。片高は正直者が馬鹿を見ないシステムなのよ」

 反対に嘘をつくと必ずしっぺ返しが待っています。くすぐりの刑です。


「そんなシステム、あんのか」

「それがあるのよ。母さんが首席だったのが証拠ね!」

 そうです。母さんでも首席になれたのは、このシステムのおかげです。


「母さん、首席だったの?」

「もちのろん!」

 純ちゃん、信じて驚いてます。


「で、ど、どんな願いを叶えたの?」

「たしか3つ。まずは『晩のおかずが普通の家庭より2品多い生活』と……」

 そうです。握るべきは家族の胃袋です。


「それから……あっ、そうそう……」

 これこそが最大の恩恵です。母さん、思わずどや顔してしまいます。


「『超絶美少女な3人娘に囲まれる生活。あ、やっぱ1人は男でいい』よ」


 どやっ、です。これは大きいです。

 おかげで純ちゃんまで美少女に囲まれています。純ちゃんも美少女です。

 鏡を見るのが楽しくってしかたがないはずです。


 って、あれ? 純ちゃん、反応薄いです。どうしたのでしょう。

 照れてるのかもしれません。そうです。きっとそうです。テレテレです。


「3つ目は……」

 まだ言えません。


「……まだ叶ってないから、口に出せないかな」

 言いたいです。母さん、本当は言いたいです。3つ目の願い、それは……。

 『学園理事として超絶美少女に囲まれた生活。あ、1人はもち愛息子』です。


 これを聞いたら純ちゃんがどんな顔するか、楽しみです。

 泣いてよろこぶでしょうか、失神するでしょうか。

 どっちにしても感謝されるに決まっています。


「じゃあな!」

 純ちゃんの態度が冷たくなりました。どうしたのでしょう。

 そんな反応されたら母さん、悲しいです。


「純ちゃん、そんなにつれなくすると、お風呂抜きの刑にするわよ」

 純ちゃんはお風呂が大好きです。

 『大した手入れはしてない』と言いつつ30分かけて髪を洗います。


 鏡の前で、うっとりした目で自分の姿を見ているときがあります。

 そんな純ちゃんにお風呂抜きの生活は耐えられません。


「行って参ります、母上」

 純ちゃんの態度が変わりました。激変です。うれしいです。


「いってらっしゃい。志望動機は正直に言うのよ!」

 片高には真実の愛とは何かを気付かせてくれる何かがあります。

 最初にあった人がポイントです!

________________________

 マイペースな母さんでした。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

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