人外、不良、眼鏡

「俺達、帰りの電車賃無くなっちまったから貸してくんね?」

夜の賑わう繁華街の路地裏。三人の不良が気弱そうな眼鏡の少年を囲む。

彼らより一回り程小柄な少年は、オドオドしていて一言も声を発することは無く、

素直に金を差し出し解放された。


「今回、大漁じゃーん!これからゲーセンいかね?」

「またゲーセンかよ。女呼んでカラオケにしようぜ。」

「馬鹿かお前らは。こんだけ金あんだから、どっちも行きゃいいだろーが。」

想定以上の臨時収入にはしゃぐ不良たち。

今日だけで使いきれないであろう大金を、一人が見せつけながら話を切り出す。

「おい、さっきの眼鏡のガキ。どっかの金持ちの息子だったんじゃね?」

「知らねーよ。金さえ出してくれりゃ、誰でもいいわ。」

「確かにー!ぎゃははっ!」

大して気に留めずに、三人はゲームセンターの店内に向かった。


翌日。

不良の一人が退屈そうに、夜の繁華街をぶらついている。

「ったく。どいつもこいつも女、女。他に金の使い方知らねーのか、よっ!」

ガンッ!苛立ちから近くにあったゴミ箱を蹴り飛ばす。

大きく響く音に、振り向く人こそいるが誰も声をかける素振りは無い。足早に通り過ぎるだけ。

「チッ。つまんねー。」

彼は再び歩きだし、路地裏に向かう道へ差し掛かるタイミングで、

遠くにいる存在に気付いた。

昨日大金を奪われた少年が一人、ゆっくりと街を歩いていた。

「…ついてんな。へっへっへ。」


「さっさとついて来いよオラッ!」

少年の胸倉を乱暴に掴み、路地裏へ引っ張っていく。

「さて。今日も持ってんだろ?俺にくんね?」

「……。」

返事は無い。動く素振りも無い。

機嫌の良くない不良は、今日の鬱憤も込めて反応のない少年の鳩尾を殴りつける。

にやつく不良に対し、表情がピクリとも動くことが無い眼鏡の少年。

そのままの姿勢で僅かに固まっていたが、次の行動を起こしたのは、意外にも少年の方であった。


不良の目を見上げニタニタしている。醜悪な表情を浮かべながら。

目が合った瞬間に、血の気が引いて数歩後ずさる不良。

不気味に笑っている少年をキッと鋭く睨みつけたが、動き出すことは出来ない。

少年は、かけている眼鏡に手を伸ばし外した直後、

名状しがたい異形の姿に変わり、不良の顔を覗き込んだ。

「あアあァァーーーっ!!」

恐怖で満たされた悲鳴が聞こえた瞬間、彼の姿はどこにも見当たらなくなっていた。

残ったのは、小柄な眼鏡の少年。

口に付着した赤い物をハンカチで拭い、繁華街へと姿を消した。

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ルールを縛って小説書く。 うつ伏せ キマユ @kimayu_penguin

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