バカップル、おっさん、ドキドキ
私の日課は素晴らしい物だ。断言しよう。
日課とは、人間観察である。
喫茶店のオープンテラスの指定席で、乱歩でも嗜みながら周りを伺うのだ。
ああ…今日もブレンドが美味い。口によく合うし、高い豆など興味も無い。
…早速、最近の注目株がおいでのようだ。
落ち着いた雰囲気の紳士だが、風貌とは裏腹に私を楽しませてくれるのだ。
決まった席で英字新聞を広げる。
さあ、ここからだ。
カップを口に運び、…ビクッと。今回は見る事が叶ったな。
この紳士、猫舌である。
平静を装っても無駄だ。顔が赤いぞ。
引き続き、観察するとしよう。
ふむ…丁度良いのが紳士の前にいるじゃあないか。これは楽しみだ。
所謂、バカップルという存在か。双方の距離が近すぎて、そのうち衝突事故でも起こりそうだ。
まあ、私が見るのはこいつらでは無い。目の前の紳士一択だ。なぜなら…
私と同じく人間観察を日課としているからだ。
観察する人間を観察する。最高じゃあないか。
しかし、下手なものだな。表情が出てしまっている。
更に言えば、そんな前のめりに見ては他の客に不審者と疑われるぞ。
おっと。どうやら動きがあったようだな。
紳士の新聞を持つ手に力が入ってきている。バカップルが何かするのか?少し見てみるか。
なるほど。
両者の額を合わせ、見つめあい、そのまま接吻。さあ、紳士はどうなった?
はははっ!素晴らしいじゃないか!私ほどの上級者でも、口角が動いてしまった。
擬音で例えるなら、「ボンッ!」だろうか。確かに紳士の脳天が爆発していた。
そうなのだ。この紳士、ピュアである。
新聞で顔を隠しても、震えてるのが良く見える。
今日は限界のようだな。帰り支度を始めてしまった。
だが、まだ楽しみは残っている。
紳士よ。残っている珈琲はどうするつもりだ?くっくっく…
立ち上がり、カップを持ち、中身を一気に、飲み干し…ここだ。
繰り返しの観察で至高とも言える瞬間。それは、未来を言い当てられる事だ。
むせている紳士のせき込む音がテラスに響き、まるで私に称賛を送っているかのようだ。
逃げるようにトレーを返却し、早足で帰る紳士を視線で見送れば、日課は終わりだ。
ああ…今日も満たされた。鼓動が心地良く弾んでいるではないか。
紳士と年齢が近ければ、彼に恋をしていたのだろうか。やめよう…下らない。
私は、生き甲斐を謳歌していくのだろう。この先も、ずっと。
やはり人間観察は素晴らしい物だ。
明日は、どんな姿が見られるのか、今から楽しみで仕方がない。
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