047.面影。

 お前は何とも思わないのか。


 空の問いに、金と銀の混ざり合った髪色の少年は短く返す。


 何が。


 その……本当に私が空でいいのかとか。他の候補者が良かったのではないかとか。何か、色々……。


 別に、興味ないよ。


 興味、ない。


 少年の言葉を、空はぽつりと繰り返す。それは空自身に対してか、空という地位に対してか。どちらにせよ、同じことのように空には思えた。


 君は、何のためにここにいるんだい。


 それは……。


 ふいにたずねられて言葉に詰まり、空は少年を見つめた。けれども少年の表情からは何の感情も読み取れない。空は一度、深く呼吸をしてから口を開いた。


 護りたいんだ。私は、私の知った者達を皆、守りたい。例えそれが傲慢でも、私にはそれしかできないから。


 空が空としてここにいることで、誰かを傷つけることもあるのかもしれない。けれども空が空でなければ、きっと何も護れずに、誰かが傷付いている事さえも知らずに終わってしまう。だから、せめて目に見える全てのものだけは、護れるようにと。

 一葉一葉大切に紡がれていく言を、少年はただ黙って聞いていた。


 人は皆それぞれに自分の世界があって、それはその人だけのものでしかない。誰かに委譲することも、誰かと共有することも出来ない。その世界の続きを紡ぎ、見ることができるのは、その誰かだけなんだ。


 だから、と空は昊を見上げて告げる。


 消えていい人なんてどこにもいないから、誰も消えずに済むように、誰も傷つかずに済むように、私はここにいる。


 言い切ってから、空は視線を少年に戻した。少年は空に目を向けたまま、遠くを見やる。


 …………誰かの世界、か。やっぱり君も同じことを言うんだね。


 やっぱり……?


 聞き返す空の質問に応えず、少年がゆるく首を振る。


 以前、君と同じことを言った奴がいたよ。君と同じように世界に縛られていたな。


 自分は空っぽでしかなかったのにね、小さな世界の不適合者。

 小声で続けられた囁きは、空の耳には届かない。聞き返そうとした空が口を開く前に、少年が次の言葉を放った。


 一つ、心に留めておくといい。他人の消失なんて、結局は君にも他の誰にも関係のない。君がどう思おうと、しょせんそれは他人事でしかないさ。


 そう言うと、少年は空を置いてどこかへ行ってしまった。残された空は、小さく呟く。


 他人事、か。確かにそうかもしれないな。でも、私は――。




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