030.鏡。
彼らはまるで表裏一体の鏡だ、と海は思った。周りを全て包み込む空と、全てを拒絶する雲と。不思議とその根底に在るのは同じものなのだ。
空君はさ、雲君の事をどう思っているんだい?
海がそう訊ねると、空は不思議そうな顔で海を見て小さく首を傾げた。
雲は雲でしかないが。
当たり前のようにそんな風に返す空に海が苦笑する。そんな海の様は、まるで純粋な子供に疑問を持ちかけられ、答えに辟易している大人のようだった。
あー、うん。まあそうなんだけどね。要するにさ、雲君は空君の特別なのかって事だよ。
特別、と空が海の言葉を小さく繰り返せば、そうだよ、と海が頷く。空は首を傾げて思案する。
どう……だろうな。よく、分からない。
実際のところ、それが本音だった。雲に関しては、空には分からない事が多すぎる。それは、空自身が雲に向ける感情にしてみても同じなのだ。自分の事なのに分からなくなってしまう。
僕はさ、雲君と空君は似ていると思うんだ。
似ている? 私とあいつが?
そう。君が表で雲君は裏。真逆だから、似ているんだよ。
ふ……ふふっ……あははははっ!
不意に空が堪えられなくなったかのように笑い声をあげた。海が驚いて目を丸くする。
そ、空君?
ああ、いや。すまない。あまりにも面白い冗談だったから、ついな。
空の言葉に海はますます困惑したような顔になる。
冗談のつもりはないんだけどな。
似てるわけ、ないんだよ。あいつが帰る場所は私ではない。あいつと私では根本が違うから。
例え、同族だとしても。世界に興味がないだけの青年と、そうではないのに消えたいと願う空。その違いはとてつもなく大きい。小さな世界の不適合者、とそう呼んでくれるあの金と銀の髪色の青年と鏡のような存在であれたなら、どんなに良かったことだろうと空は思う。
違うんだよ。
そう告げた言葉に込められたのは、果たしてどんなものだったのだろう。海に向かって言ったのか、空自身に言い聞かせようとした言葉なのか。それは空自身にも分からないことだった。
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