031.不可解。

 よお、雲。


 そう声をかけた嵐に、金と銀が混ざり合う光が融け込んだような髪を揺らしながら、漆黒を纏う青年が振り返った。青年の鋭い目が相手を見定めるように細められる。


 ああ、君か。何か用。


 相手が空の幼馴染みの嵐だと分かり、青年はさして興味がなさそうな返答をした。青年の態度に嵐が苦笑するのを見て、青年は不快そうに眉根を寄せる。何、と不機嫌な声音で青年が嵐に問う。


 悪いな。いや、何つうか、お前は相変わらずだと思ってな。


 何が言いたいのか、一応聞いてあげるよ。


 青年の尊大な態度はいつものことなので、嵐は特に文句を言うこともなく言葉を続けた。


 お前さ、ほんと執着とかなさそうだろ。しかも、生きる気力がないってのとは別だっつーのが、なんかな。


 軽く頭を掻きながらそう言う嵐。ふうん、と面白そうに青年が笑む。


 さすが、あれの幼馴染みだけあるね。なかなか面白いことを言う。及第点はあげてもいいかな。


 でもまあ、ぎりぎりだけど。

 そう言って青年が嵐を見据えれば、真っ直ぐに視線を向けられた嵐が不思議そうな顔をする。元々不可解なところが多い青年のこと、不思議に思いはしたが嵐は特に追及はしなかった。青年の言った、あれという言葉に何故自分が青年を呼び止めたのかを思い出し、嵐が訊ねる。


 そういや雲。お前、あいつに何言ったんだ? この間から様子が変なんだよ。


 この間というのに直ぐに思い当たり、ああ、と青年が何でもないように返す。


 別に。ただ、呼んでやっただけだよ。


 何て。


 小さな世界の不適合者。


 嵐の問いに、青年が一言で返す。それだけ言うと、用は済んだのだろうと判断した青年は呆けている嵐を放ってさっさと行ってしまう。青年がいなくなったことにはっとして嵐は、あーと悩ましげな声を出した。


 訳、分かんねえ。


 青年の言動もそうだが、青年にそれを告げられて悩んでいる様子の空も、だった。空と嵐は幼馴染みで、互いのことは自分以上に理解し合っているつもりだった。けれどこの時初めて、嵐は空を理解出来なかった。

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