022.指切り。

 いつまで不貞腐れているつもりだい、小さな世界の不適合者。


 金と銀の混じり合った狭間のような髪色の青年は、部屋の隅でいじける空に声をかける。空は振り向かず、青年に言葉を返しすらしない。青年としても流石に苛立ってくる。


 いい加減にしないと、もう部屋から出ていくよ。


 溜め息混じりに青年がそう言うと、空は不機嫌顔でやっと振り向いた。不機嫌と言っても、頬を膨らませて子供のような顔でしかないが。


 お前が、言っただろう。


 部屋で待っていてあげるから。君が帰って来たら、お茶にしよう。

 そう、青年は空に告げたのだ。だから空はいつもより頑張って、早く仕事を終わらせて帰って来たというのに。空が自室に戻った時、青年はそこにいなかった。


 それは、悪いと思ってるよ。


 ……遅れた理由も話さない癖にか?


 はあ、と溜め息を吐き出し青年が空へと手を伸ばす。空の頬に、青年が触れた。白く長い指が頬を滑り、空は思わず目を瞑る。


 遅れた事実に変わりはないから、理由なんて言っても言い訳にしかならないんだ。ごめん。


 待っていなかった訳ではないのだと、空だって分かっている。それでも。それでも、どうしても無理だった。だって、青年は約束した。空を待っている、と。それがどれ程嬉しかった事か。


 ……私が、勝手に待ってるだけなら、いいんだ。だけど、今日、はっ……約束、してくれた。お前からっ、言って、くれた、っから……。


 ぽろぽろと空の瞳から溢れ出る涙の雨を、青年は己の指で掬い取る。


 ごめんね。


 青年が引き寄せて抱きしめれば、空は箍が外れたように泣き出した。そんな空の背中を、ぽんぽんと青年は優しく叩く。


 約束。今度は何があっても守るから。


 互いに小指を絡ませ、二人で指切りをした。

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