021.嘘吐き。

 早く終わらせてきなよ、小さな世界の不適合者。部屋で待っていてあげるから。君が帰って来たら、お茶にしよう。


 会合に行くのを渋っていた空に、金と銀とを相伴う髪をした青年はそう告げた。今日の会合は親睦という名目で彩の連中が空を品定めするためにあるようなものであり、そこに来る相手が相手なだけにあまり乗り気ではなかった。だけど青年がそう言ってくれたから、空は頑張ったのだ。


 適合している癖に非合を求めているようなくだらない連中との話も、普段なら考えられないくらい円滑に進んだ。空がまだ若いからと小馬鹿にしようとする少し腹が立つような言動も、その後の青年との茶会の事を考えればてんで気にならない。いつも以上ににこやかな笑みで返してやった。


 会合が始まる前に、同行者であった嵐からは今日は何だか浮かれていると言われたし、虹からははしゃぐなと軽く銃を向けられた。自覚はしているが、抑え切れない。


 それぐらい、楽しみにしていたのだ。


 雲! 帰ったぞ。


 ばん、と勢いよく自室の扉を開けば、そこで待っていたのは暗闇。金と銀を合わせ持つような青年の姿は、どこにも、ない。


 雲……?


 返事はなく不安げな空の声だけが虚空に響く。青年が待ってる。そう考えて会合から帰ってすぐに本日の執務も全て終わらせ、やっとのことで仕事から解放されたのだ。なのに。


 ……っ……。


 なんで、どうして。待ってると、言ってくれただろう。どうして、お前はここにいない。青年がいないという事実に、酷い虚無感に襲われた。


 うそ、つき……。


 零れ落ちたのは、言葉だけだったろうか。暗闇に支配された部屋の中、ただ空の姿だけがそこにあった。

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