017.刹那。
一瞬とは、儚いものだ。だから我々は今を大切に生きなければならない。
吐き気がするから止めてくれないかな、小さな世界の不適合者。
詩的な言葉を口にした空に、不機嫌そうに眉根を寄せた青年が返した。青年の髪は白金の色をしていて、きらきらと輝くそれは光にも似ている。青年の言葉を聞いた空が、むっと頬を膨らせる。
なんだ、その言い方は。第一これは私個人のものではなく故人の、謂わば人生の先輩の言葉だぞ。
反論してきた空を青年は鼻であしらう。
別にそんなもの、意味なんてないだろう。
特に、君みたいな奴にはね。
青年にそう続けられ、空は押し黙った。意味がない、それは空がこの世界に適合していないことを示唆している。例え先人の言葉を用いたとして、それで空がこの世界に適合できる事はない。ふざけたごっこ遊びなどやめておけ、と。
……私は、そんなつもりで言ったのではない。ただ少しだけ分かると思った、それだけだ。
空が青年を見上げ、二人の視線が交差する。そう、とさして興味がないように青年が返す。それから空に幾束かの紙を差し出した。
これ、頼まれてた資料。
それだけ言って去ろうとした青年を空が急いで引き留める。
待て、雲。お前はどうしてそうせっかちなんだ。私の話を聞いていなかったのか。
さあね。君が何を言おうと僕には関係ないよ、小さな世界の不適合者。
だから、お前はどうしてそう……。ああ、もう! 何でもいいしどうでもいいからとにかく私の傍にいろ。
そこに行き着くまでの過程が分からないな。それと、いい加減この手を離せ。
わ、待て!
空が掴んでいた裾を青年が急に引いた事で、空は体勢を崩しそのまま青年の方へ倒れた。それを不本意ながら受け止めた青年が呆れたように溜め息をつく。
君、本当に馬鹿だろう。
うっ、と言葉に詰まるが、それでも空はふわりと嬉しそうに笑みを浮かべた。
それぐらい、私はお前との一瞬がすごく大事なんだよ。
空の言葉と笑みに青年は再び溜め息をつく。それすら、ますます空を笑顔にさせる。
時計の秒針が、ただ静かに時を刻んでいた。
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