015.飴玉。

 からころ、からころ。きらきらと光るそれを、空は口の中で幾度も転がす。まるで宝石のような球体は、甘く口の中を侵食していく。


 何してるの、小さな世界の不適合者。


 からころ、からころ。音を立てながら頬を膨らしている空に、金と銀の光を併せ持つ青年が問い掛ける。


 ん? 何だ、お前も食べるか?


 そう言って空は光と同じ色をした小さな玉を差し出した。宝石のようにきらきらと輝くそれは甘い香りを放っている。


 いらないよ。子供じゃあるまいし。


 呆れたような溜め息を吐きながら青年がそう言った。むう、と空は頬を膨らせた。


 何だそれは。まるで私が子供みたいではないか。


 子供だろう。


 そんな飴玉一つで喜んでいる内はね、と告げる青年。空はむっとして柳眉を吊り上げた。


 お前なあっ。


 これ、この間言っていた書類。渡したよ。


 抗議しようとした空に構わず、青年は机の上に大量の紙束を置く。重量のある音と共に置かれたそれを見て、眉を顰めた空のことは黙殺し青年はその場を去ろうとする。


 待て、雲。少し手伝っ……。


 断る。精々幼馴染みにでも甘やかしてもらうと良い。


 空の言葉を遮ってそう告げ、青年は振り返りもせずに部屋を出ていった。一人残された空は溜め息を吐く。ふと、いつの間にやら書類と共に置かれていたものに気付いた。手にとって包装紙を外し、ころんとそれを口に放る。


 酸っぱい……。


 そう一人ごちながら、口内を侵す酸味にどこか青年を思い出して、空は淡い笑みを浮かべた。

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