012.毒。

 君はもっと警戒心を持つべきだね、小さな世界の不適合者。


 ごくり、と茶を飲み干した空に青年が告げた。金とも銀ともつかぬ青年の髪は、光を浴びて淡く煌めいている。空は目を瞬かせ青年を見つめた。


 どういう事だ?


 空の問いには答えず、青年は大仰に溜め息を吐く。それから嘲るような笑みを空に向けた。


 こんなのが世界の頂点だなんて、呆れたものだよね。君の補佐役には同情するよ。


 お前に情などあったのか!?


 己が馬鹿にされたとは露知らず、青年の言葉に空は驚きを露わにする。


 さあね。


 随分と失礼な言葉だったけれど、青年は他人事のようにそう言っただけだった。それが何だか気に食わなくて、空は眉尻を寄せる。


 何だ、それは。他人事のようではないか。


 君にどう思われようと関係ないからね。それより、そろそろ効いてくる頃だと思うよ。


 は?


 何を、と言いかけた言葉が声にならない。空の視界はぶれ、焦点が合わなくなっていた。意識が闇に飲まれる感覚が空を呑み込む。


 っ……。


 朦朧とする意識をどうにか保って、何をした、と視線で問いただすように青年を睨んだ。しかし返ってくるのは冷たい笑みのみ。


 君にも効くよう特殊な配合をしたから。言っただろう、もう少し警戒心を持ちなって。


 空の顔が悔しげに歪む。完全に油断していた。この青年が、同族だからといって。


 じゃあね、小さな世界の不適合者。


 上機嫌に笑う青年の姿を最後に、空の意識は闇に閉ざされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る