009.優しさ。
……言いたい事があるならはっきり言いなよ、小さな世界の不適合者。
金とも銀ともつかぬ狭間色をした青年が、鬱陶しそうな顔をしながら空に言った。暫し逡巡し、空は口を開く。
……その、お前が手に持っているものは、何だ?
何って、鳥だけど。
それがどうかしたのか、とでも言いたげに青年が答えた。どうもこうも、空が問いたいのはそんな事ではない。どうして青年が鳥など持っているのか、という事だ。ちち、と小鳥が鳴いた。ふわふわの毛並みに丸みを帯びた体。まさか……。
た、食べる、のか……?
空が言った途端、鈍色が光る。ごんっという音と共に衝撃が空を襲った。
……っ……。
空は声も出せずじんじんと痛む頭を抱え込む。片手は鳥で塞がっている為片手だけの打撃だが、それでも青年の攻撃は十分痛い。あまりの痛さに、空の目尻には涙さえ浮かんでいる。青年は鈍色の武器を手にしたまま、冷たく空を見下ろしていた。
な、何をする……!
君が失礼な事を言うからだろう。
やっとの事で声を絞り出し、涙目で睨む空に青年は不機嫌そうに返す。否、実際青年は目に見えて不機嫌だった。
いや、だってお前ならやりそ……待て! 分かった! 分かったから落ち着け! とりあえず凶器をしまえ、な?
再び鈍色を構えた青年に、言葉を途中で切り慌てて距離を取る。小さく溜め息を吐きながら、青年は鈍色をしまう。
全く、何でお前はそんなに乱暴なんだ。
空がそうぼやくと、青年は深く溜め息を吐き言葉を投げた。
全く、何で君はそう学習しないんだろうね。
やれやれと言わんばかりの青年の口調に、空はむう、と膨れっ面になる。しかし、そうした態度を取ったところで青年には通用しない。どころか、青年の加虐心を煽り、更に殴られる事態にもなり得る。
それで、その鳥は何なんだ?
それでもまだ幾分か拗ねたような声で、空は青年に問うた。青年の掌で、ちち、と小鳥が鳴く。
拾ったんだよ。落ちてたから。
落ちてた? ふうん。それにしても、大人しいな。
小鳥に手を伸ばそうとして、ばしりと叩き落とされた。何するんだ、抗議しようとして、ふと小鳥の羽の一部が白い布で覆われている事に気付く。
あれ、この鳥、もしかして怪我をしているのか?
見て分からないなら、相当の馬鹿だよね。
……お前はもう少し普通の言い方が出来ないのか?
険を帯びた青年の皮肉に反論こそすれ、空は怒ってなどいなかった。小鳥に巻かれた布が誰によるものか、空には分かっている。どんなにその言動が酷いものであろうと、それでもやはり青年が優しい事に変わりはないのだ。ふふ、と含み笑いをすれば、青年から睨まれた。
……全く、その優しさを少しぐらい私に向けてくれても良いものを。
そう思ったが口には出さずに、空はただ笑みを浮かべていた。
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