007.笑顔。
何がしたいの、小さな世界の不適合者。
痛っ! 何をする!
金とも銀ともつかぬような髪に触れようとした手を叩き落とし、青年が言った。空は弾かれた手をさする。
君が断りもなくひとの髪を触ろうとするからだろう。
ふむ。聞けば良いのか? じゃあ、触らせろ。
そういう問題じゃない。それと僕に命令しようだなんて随分生意気だね。
青年が空の頬をぐにーっ、とあらんかぎりに伸ばす。
いひゃっ。はなせっ!
青年が意外にもあっさりと手を離した。空は伸ばされた頬をさすりながら、恨めしげに青年を見る。
乱暴者め……。
ふ、あははっ! 君達って、いつもこうなの?
突然聞こえた笑い声に二人が視線を向ければ、青年と空のやり取りを脇で見ていた大地がお腹を抱えて笑っていた。
見も知らぬ他人に、いきなり笑われるのは不快だよ。……まあ、知らない訳じゃないけどね。
青年が見るからに不機嫌そうな表情で言う。大地が目尻に浮かんだ生理的な涙を掬いながら青年に返す。
ごめんね。えっと、君は……雲、だよね。空からよく話を聞いてるよ。
……君は、大地だろう。これの親友、てところだね。
空を親指で示しながら、青年は応えた。
うん。当たらずとも遠からず、だね。僕と空は似た者同士だから。
ああ、そうみたいだね。
ふと、青年が手を伸ばす。ぽんぽんと、大人が子供を誉める時のように、大地の頭を軽く叩いた。
えっと……えっ?
突然の出来事に、大地の頭は追いつかない。疑問符を浮かべながら青年を見る。
君も頑張ってるようだからね。まあ、無理しない程度にしなよ。
大地は叩かれた頭に、そっと手を触れた。ふわりと暖かな気持ちが込み上げてくる。
ずるい……。私にはしてくれた事がない癖に……。
拗ねたように頬を膨らせる空に溜め息を吐きながら、青年は空の頭を撫でてやる。柔和な笑みを浮かべながら、空が大地に話し掛ける。
良い奴だろう。無愛想だから近寄り難いだけだが、意外と優しい所は少しぐらいならあるんだ。それと、あまり寂しい事を言ってくれるな。私と大地は親友だよ。
君も本当、大概失礼だよね。
青年が呆れて溜め息を吐く。そんな二人のやり取りに、また大地が笑う。
うん。そうだね。
笑い合う大地と大空に、青年は再び呆れたような溜め息を吐く。けれどもそんな二人につられて、青年もいつしか、穏やかな笑みを浮かべていた。
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