004.涙。
また来たの、小さな世界の不適合者。
随分な言いようだな。
あからさまなため息で以って迎えた青年に、空は笑って言い返す。またひとつ、ため息が零された。
残念ながら、僕は窓から侵入する奴を歓迎するような神経は持ち合わせていないんだ。
君みたいにね、と金と銀の狭間の髪色の青年は言う。空は態と拗ねた顔をする。
お前とて、窓から入って来るだろう?
君はそれを受け入れるけど、僕は受け入れない。それだけの話だ、侵入者。
ああ、お前はそういう奴だよ。なあ、私は時々、思うんだ。
急に寂しそうな顔をする空に、青年はただ真っ直ぐ視線を向ける。
私はいつか、消えてしまう。いつか、消されてしまう。
呟くように、囁くように、空は言う。青年は何も言わず、ただ空の言葉を聞いていた。
それでも、生きている意味はあるのか、と。嘘だらけの、この、世界で。
そう言い終えると、空は口を閉ざす。ほんの一瞬、揺れて見えた瞳は、青年の気のせいか。青年には、それがわからない。確かめようがない。だから。
君、さ。馬鹿だろう。
消えそうな空を、青年は抱き締めた。己の腕の中に、閉じ込めた。消えないように、消せないように。
君はさ、いつだって笑顔で。空っぽでも空っぽなりに生きて。他人のためならいくらでも頑張れて。他人のためならいくらでも傷付いて。何があっても守ろうとする癖に、いつも自分の事は知らん顔で。
並べ立てられていく言葉は、虚無でも嘘でもなく、真実と事実のみ。
今までずっと、そういう風に生きてきたんだろう。
優しい優しい、現実。確かな、飾り気のない、青年の言葉。
確かに馬鹿みたいな生き方だけど、ていうか馬鹿でしかないけど。
けれども空には、それだけで十分だった。不器用だけど真っ直ぐな、その優しさに包まれて。
それでもそれが、君なんだよ。
小さな雫が、逆光に、光った。
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