002.同族。

 僕が知っているのは、空が嘘つきだってことだ。空っぽな、小さな世界の不適合者。


 銀とも金ともつかない髪色の青年は、抑揚のない声でそう言った。彼の言葉は的を射ているように、空には思えた。


 そうかもしれないな。なあ、お前には、この世界はどう見える?


 だから、自然と彼に問うていた。空っぽな嘘だらけのこの世界は、目の前の青年には、どう見えるのだろう。


 ……君は多分、この世界が空っぽだとか、嘘だらけだとか、そんな風に思っているんだろうけど。


 青年はそこで一度、言葉を区切った。空はびくりと体を震わせる。どうして分かったのだろう。今まで誰にも言った事はないし、心が読まれぬよう対策はしてある。空の胸の内に秘めた、あの霧や虹でさえも知らぬ事だ。真っ直ぐ鋭利な視線を空に向け、青年は続けた。


 だから君は『空』なんだよ。


 空っぽで嘘だらけで信じた事さえ信じずに、自分の事さえ何も知らず知りすぎている、君だから。自分を信じ、疑い、矛盾しながら生きていく、君だから。

 虚無だから、空で有り得る。

 空だから、万物に成り得る。


 君自身、それを分かっているんだろう。


 この先に何が起ころうと、多分君はそれを疾うに知っている。

 青年はそう言って、口を閉ざした。


 違う! 私は決して――。


 青年の言葉を否定しようとして言葉に詰まる。青年の視線があまりにも真っ直ぐに、空を捉えていたから。否定が、しきれない。本当は分かっている。自分がこの世界に合っていない、適合出来ない事も。


 じゃあ、お前にはこの世界がどう見えると言うのだ!


 最初の質問をもう一度、今度は叩き付けるように吐き出した。どうしてこんなに苛立つのだろう。心を見透かされているようで、苛立ちが消えない。


 世界、ね。どうにも。


 どうにも?


 空が、青年の言葉をおうむ返しする。


 そう、何にも映らない。世界はただの世界だろう。


 青年は問いかけるでもなく、どこか諭すように言った。そうして、空は気付く。青年もまた空と同じ、けれども異なる種の、世界の不適合者である事に。



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