苦くて甘い
そこから何を考えて歩いたのかわからない。
ただ、いつのまにかもう高校の最寄駅には着いていて、電車はあと2分で来る。
優香は何もする気にならなくて、でも家に帰る気にもなれなくて、電車に乗り込み、なんとなく3駅目で降りた。
駅から出て、ここが都会の密集地であることを思い出す。友達と遊ぶ時に良く来る場所で、
スーツを着た大人や、制服の高校生たちが交差点を行き交う。
空は朝よりも重苦しくて、暗い。
都会の空は人の分だけ、憂鬱な気持ちを飲み込んでいるようだ。
優香はそこから逃げるようにとりあえず目の前に見つけたカフェに入る。
外が見えるガラスのカウンター席で、さっき頼んだ暖かいカフェラテを飲む。今日はそれと目についたショートケーキも頼んでしまった。
そういえば大和はショートケーキが好きだと言っていた。甘党なんだよねと言いつつ、よくコンビニスイーツを頬張っていた。
夜中ゲームをしすぎたという次の日にはカフェラテを自販機で買ってきていた。
ああ、私は大和のことが自分の思ってる何倍も好きなんだ。
と、優香は初めて実感した。
多分きっかけは雨の話だ。大和も雨が好きだと笑ったあの日だ。
思わず泣いてしまって、街を歩く人から見えないようにカフェラテのカップを持って飲むと思ってたよりも苦くて、慌ててフォークで口に入れたショートケーキは甘かった。
口の苦みと甘みのバランスがちょうど良くなって落ち着いた時、カフェラテと一緒に「こちら持ち帰りいただけます」と受け取ったコースターに英語ではない文字が綴られているのに気づく。
なんだろうと思い、スマホで検索すると
「雨の後にはいい天気がやってくる」という意味のフランス語だった。
「ふふ」
優香は潤んだ目を細めながら笑う。
そうだよ。雨の後は晴れる。
自分で見つけてきた。晴れてる日がうれしいのは雨が降ってる日があるからだ。
「明日は晴れかな」
カフェを立ち去り、ストレートの髪を揺らして優香は道を歩く。
頭上には花を咲かせて。
雨は優香に次を教えてくれる道標だ。
雨晴れ晴れ 椿 @tubakidayo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます