『すみません、今日はレイちゃんお休みなんですよ。他の娘なら行けますが』

「他の娘……いえ、大丈夫です。レイさんにお大事にとお伝えください」

『いつもご利用ありがとうございます!』

 店側から他の娘を勧められたとき一瞬、自分がレイ以外の女としているところを想像した。とても気分にはなれなかった。

「……生理かな」

 女の身体の構造上、常にとはいかない。

 美由はもうセックスがしたいのではない、レイに抱かれたいのだ。

 身体の関係はあるのにレイの本名も住んでいる場所も知らない。

 それが合法的とはいえ、お金での関係なのだと頭ではわかってはいても「なぜ」という感情が湧いてくる。


 ――身体は知っているのになぜ私はレイさんについて知らないのだろう。

 

こんな形で出会わなければ。

 しかし、こんな形でなければ、どこでレイと知り合うことが出来たのだろうか。

『恥ずかしいところ見せたってお互いに共通の知り合いがいなければそういう話を共有されることもないし』

 レイの言っていた言葉には美由にも覚えがあった。

 初めて恋人が出来たことを友人に話したとき「どこまでしたの?」とまず聞かれた。

 恥ずかしかったが「最後まで」と答えた。

 友人はニヤニヤしながら「へぇーおめでとう」と言った。

 美由はあのとき友人を気持ち悪いと思った。

 

――ああ。この子の頭の中には今、私がセックスしている姿が浮かんでいるんだ。


 久しぶりの友人との再会だったがそれ以降、会っていない。

 褒めて欲しかった。祝福して欲しかった。

 ただそれだけだった。

 レイはきっと、自分と同じで誰かに話して言いふらされて傷ついた経験があるのだろう。

 美由はそのレイを傷つけたであろう見知らぬ友人に対して怒りがこみあげてきた。

行き場のない怒りなのはわかっていた。

美由は心を落ち着けるかのようにレイから貰ったぬいぐるみを撫でた。

 白くて丸い犬。

 レイと似ていないが美由はたまに『レイ』と呼び、一人で慰める。

 物足りなくなった美由はレイが付けているであろう香水を探し、ぬいぐるみに軽く付けた。

「……レイさんと同じ匂いがする」

 美由は極端に金が無いわけではないが女の身体の構造上と仕事の都合でレイに会うのは月に二回が限度だった。

 美由はレイに夢中になっていた。

 恋をする楽しみを思い出すととても厄介だ。

 片思いの苦しみすら快楽に感じる。

 叶わない。いや叶うかもしれないから楽しい。

 叶えたい。

 美由の日常はレイを思えば思うほど充実していった。

しかし、美由はあることを見落としていた。

「これってホストにハマっているのと同じなのでは?」

 レイが自分を可愛いとか綺麗だとか言ってくれるのは仕事だからに決まってるじゃないか。

 なんて馬鹿なのだろう。舞い上がっていた自分が恥ずかしい。

美由は本当にレイに恋をしてしまったからいまさらこんなことに気付いたところでもう戻れなかった。

 ダメな恋だとはわかっていても一度灯った火は中々消えてはくれない。

 消えるどころかどんどんと燃え上がるばかりだ。

 自分の恋は違う。自分は他の人たちとは違うんだ。

 心の中で思ってた。

 自分は特別なのだと思っていた。 

 特別なことなんかない。

 レイは他の客にも同じことを言い。やるのだ。

 出会った場所が憎くて、でも、そこで出会わなければ一生、出会うことのなかったレイ……。

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