8.原色の悪魔

隣国の彩国への特使としてウェアウルフの里を出発したハルト達。メンバーはハルト達三人に、マスターウルフであるガイアの四名。召喚すればこれにウェルスも加わる。


「なあガイア。彩国って遠いのか?」


乾燥した荒野。時々吹く砂の混じった熱風。喉を傷めないように皆、布を顔に巻いている。ハルトは歩きながらガイアに尋ねた。


「まだ距離はあると思うが、正確には分からん」


「そうなのか。で、彩国ってどんな国なんだ?」


ガイアが難しい顔をして答える。


「それも良く分からない。様々な種族が集まった集団で神鳥のゴールドバードを守護している。好戦的と思っていたが、そのブルーノって奴が原因だとするともしかしたら戦意はなかったのかもしれん」


「ふーん、そうか。で、その神鳥ってのは手懐けられるのか?」


「はははっ、そりゃどうだろうな。何せ神鳥だ。おさはああ言ったが、正直望み薄じゃないか」


ガイアは笑いながら答える。


「えー、それじゃあ困るわ。騙されたの、私達?」


会話を聞いていたクレアが不満そうに言う。


「そんなことはない。実際この辺りで大きな鳥は全くいないし、神鳥がいるのは確かだから助けて貰えるかもしれん。私も全力で力になるぞ」


「うん、ありがと」


ハルトは正直に礼を言った。



それから歩くことさらに二晩。ずっと同じような景色が続いている。ハルトはもちろんガイアにも彩国に入ったのかどうかすら分からなかった。

照り付ける日差しはどんどん厳しくなる。それと共に上がる気温。じりじりと肌を焼く太陽が眩しい。クレアがまず根を上げた。


「もー、暑い!! どうしてこんなに暑いのよ!!」


まだ水は十分にあったが歩き尽くしの二日間、さすがに皆の体力の消耗が激しい。


「そうだな、今日は木陰を見つけて早めに野営とするか」


ガイアがそう言いかけた時、その周りに数体の小さな赤い生き物が出現した。


「何かいる!!」


先にその異変に気付いたルルが叫ぶ。

剣を構えるハルト。すぐに爪を伸ばすガイア。



「えっ? 燃えてる!?」


クレアが近付いて来たその小さな生き物を見て言った。地をゆっくりと這う小さなトカゲ。しかし全身が赤く燃えている。


「これは火トカゲ!!」


「なに!? 火トカゲだと!!」


火と聞いた瞬間ガイアはすぐに後退する。


「す、すまぬハルト殿。火はだめだ……」


「分かってる。ガイアはそこで待ってて」



そう言うとハルトとクレアは火を吐きながら襲いかかって来る小さな火トカゲを一体ずつ退治していった。動きが遅く攻撃力も低いので確実に倒せる。しかし数が多い。倒しても倒してもどんどんやって来る。


そしてハルトとクレアが大量の汗をかいて火トカゲの相手をしていると、その人物はゆっくりと姿を現した。


「リ、リザードマン?」


それは火トカゲと姿形は似ているがハルトよりも一回り大きく、二足歩行するリザードマンであった。皮膚の色は燃えるような赤。全身から火を出しそうな熱気。火が苦手なウェアウルフにとってはまさに天敵であろう。


「ウェアウルフにヒト族? 蛮獣の地からか?」


リザードマンはハルト達に対峙すると言った。ガイアが返す。


「そうだ。ウェアウルフの里から和平交渉の為にやって来た。彩国の者ならば話がしたい」


その言葉にリザードマンの顔色が変わる。


「ふざけるな。てめえらが勝手に攻めてきて俺達の同胞を殺しておきながら何を今更!!」


話しながら興奮したのかリザードマンの口から火が出る。


「それは勘違いだ! 話しをしたい。まずは話を聞いて欲しい!!」


ガイアが食い下がる。リザードマンは大きく目を見開いて返す。


「俺の子供達を殺しておいて何が勘違いだ! 許さん!!!」


リザードマンは周りで斬られた小さな火トカゲを見て言う。


「それは攻撃して来たので反撃したまで。むざむざと殺されろと言うのか?」


ハルトがリザードマンに言う。


「黙れ!! 【原色の悪魔】と恐れられる、この炎の戦士ファイヤ様が全員灰に帰してやる!!!」


ファイヤはそう言うと口を大きく開けて思い切り炎を吐き出した。


「みんな、下がれ!! ライトシールド・二連!!」


ブアアアアアアアアッ!!


ハルトは皆を後ろに下げるとシールドで炎のブレスを防いだ。


「シールド? お前護衛士か。ヒト族が、何をしに来た!!!」


ファイヤは持っていた剣でハルトに斬りかかる。


ガン!!


ファイヤの剣撃を同じく剣で受け止めるハルト。


「何をって、だから和平交渉だよ!!!」


ハルトはそう言うとそのまま思い切り剣を振り抜いた。


「ぐっ!」


ハルトの剣を受けて後方まで後退するファイヤ。


「黙れ、ガキ共!! このファイヤ様は騙されんぞ!!!」


ファイヤの気がどんどん大きくなる。


「ガイア、下がっていてくれ!」


「ああ、すまない……」


ウェアウルフでの攻撃のかなめであるガイアだが、相手が苦手な火使いでは勝ち目はない。


(ウェルスもダメだな、こりゃ……)


ハルトは【ヒトナキモノ】のウェルスの召喚もできないと思った。


「クレア、ルル。俺達で相手するぞ!!」


「ええ、分かったわ!!」


「うん!!」


クレアとルルが答える。



「お前達で相手だと? 俺様も安く見られたものだ。いいぜ、見せてやるぜ。地獄の獄炎を!!」


ファイヤは鬼のような形相でハルト達を睨みつけて言った。

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