7.召喚契約
「ひ、ひえ~!!!」
ブルーノは立ち上がると、片眼を押さえながら一目散に逃げて行った。
「ウェルス、大丈夫か!!」
ブルーノが逃げた後、ハルトはウェルスの元へ駆け寄る。
「ああ、大丈夫だ。それより……」
「そうだな、俺達凄く大きな勘違いをしていたのかもしれん」
「そうだ。これは大変な勘違いだ」
ウェルスはブルーノが逃げて行った方を見ながら呟いた。
「な、なんじゃと! 火の魔物をけしかけていたのは
里に戻ったウェルスは父親である
「ああ、そうだ。ブルーノってヒト族が南西の廃墟に住み着き、火の魔物であるサラマンダーを召喚して襲わせていた」
「ブルーノ? ヒト族?」
「てっきりこれまで彩国の仕業だと思っていたのだが、俺達はえらい勘違いをしていたのかもしれん」
「うむむむ……」
目を閉じ腕を組んで黙り込む長。
「で、そのブルートって奴は?」
「残念だけど逃げられた」
同席したハルトが頭を下げる。
「構わぬ。そのヒト族も気になるが、やはり先に彩国への誤解を解かねばならない。そ奴のせいで我々はどれだけ彩国と争ってきたことか……」
「ですな。一刻も早く彩国に特使を出して和平交渉を行わなければなりません」
長の隣に立つマスターウルフのガイアが言う。
「その通りじゃ。ガイア、その特使の仕事、頼まれてくれるか?」
ガイアが長に片膝をついて言う。
「無論でございます。誇るべき仕事。ときに
「どうしてじゃ?」
「はい、彼らは我々とは違う第三者の者、そして何よりそのブルーノと言うヒト族を直接見ております」
「なるほど。確かにその通りだ。彩国には【原色の悪魔】と呼ばれる恐るべき将がいるが、ハルト殿なら万が一の場合でも頼りになるであろう」
長は頷きながら言う。
「ハルト殿、それからこれはちょっとした情報なのじゃが、彩国には【ゴールドバード】と言う神鳥がおる。そしてもしその鳥を手懐けられればヘブンズウォールを超えることができるかもしれん」
「ヘブンズウォールを?」
ハルトが驚いて聞く。
「ああ、可能性の話じゃが。やってみる価値はあると思うぞ」
「確かにそうだ」
それまで黙って話を聞いていたウェルスが一歩前に出て声を上げた。
「お、俺も! 俺も同行させてくれ!!!」
「……ダメじゃ。お前では交渉などできん。大人しく帰りを待て」
「頼む、オヤジ!!」
「長じゃ」
「長!!」
「ウェルス殿、ここはこのガイアにお任せください。必ずしや我らウェアウルフに明るい未来を勝ち取ってきます」
ガイアが落ち着いた口調で話す。ウェルスはガタガタと小刻みに震え床を見ている。
「ウェルス……」
ハルトが声を掛ける。その声に反応するかのようにウェルスがハルトの方を振り返って言った。
「なあ、ハルト。俺と召喚契約結んでくれ!!」
「えっ!」
「そうすれば俺も一緒に同行できる。な、オヤジ、それなら構わんだろ?」
「な、何を言われます、ウェルス殿。そもそも召喚契約とは一体……」
ハルトは長を始めガイア達などに召喚契約、ヒトナキモノについて簡単に説明した。
「なるほど。では契約解除すれば元のように生活できるって訳だ」
「そう言うことだ」
「召喚ってウェルス殿を使役するのか?」
ガイアが尋ねる。
「使役とはちょっと違うかな。立場は対等、どちらかと言えば仲間に近い関係。それも信頼できる仲間だ」
「そうか」
「なあ、いいだろオヤジ。じゃない
必死に頼むウェルスの姿を見て長が答える。
「ワシはハルト殿達に同行をお願いした。その者が契約する、そのナントカモノってまでは知らぬ。ハルト殿の自由じゃ」
「ほ、本当か? やったぜ! さあ、ハルト契約しよう」
ウェルスは今にもハルトの顔を舐めそうな勢いで近寄って来る。
「ちょ、ちょっと待てウェルス。お前と契約するとじっちゃんにもちゃんと話さなきゃならない」
「そう言えば新しく契約したら前のはどうなるの?」
隣にいたクレアがハルトに尋ねる。
「契約を解除されたヒトナキモノは、契約した場所まで自然に戻される」
「ってことはイリス王国?」
「ああ、そうだ」
「で、ハルトはいいの? ノームとお別れして」
同じく横に立って聞いていたルルがハルトに尋ねる。
「いや、これ聞いていたら断れないだろ……」
「そうね」
ルルはハルトを見てクスッと笑った。
「よし、じゃあハルト。ズバッとやってくれ!!」
妙にテンションの高いウェルス。ハルトは適当に返事をしながら詠唱を行いノームを召喚した。
「じっちゃん、実は……」
ハルトが話しを続けようとすると、先にノームが口を開いた。
「契約解除じゃろ? 分かっておる」
「じっちゃん……」
「ハルトは
「ありがと。じっちゃん」
ハルトの目に少し光るものが見えた。それを袖で拭うと広間の中央に向かって叫んだ。
「召喚域、展開!!」
ハルトがそう叫ぶと、広間の中心にいたウェルス付近から半球ドームのような空間が大きく広がっていく。そしてどんどん大きくなっていきやがて建物の外へと消える。
「これは?」
ウェルスが尋ねる。
「召喚域。もう君はそこから出られない」
ウェルスを中心に広がった半球ドーム。色は薄い紫色。中にはハルトとウェルス、そしてノームがいる。ハルトはゆっくりウェルスに近付く。
「しゃがんで、ウェルス」
黙って膝をつくウェルス。ハルトはその頭に手を置いて契約の詠唱を唱え始める。
「我が名はハルト。古の盟約により汝と血盟召喚の契りを結ばん。求ム、汝を求ム。我が血肉を食らい我の叫びに応じよ!! その名は【ハイウルフ・ウェルス】!!」
そうハルトが唱え終えるとウェルスの体が白く光り始める。
「おお、おお! 何だこりゃ!!」
やがてウェルスの体は薄くなって消えて行った。同時に後ろにいたノームの体も薄くなり始める。
「じっちゃん!!」
ハルトはノームのところへ走り寄りその小さな体を抱きしめた。
「ありがとう、じっちゃん。一緒に戦えて幸せだったよ」
ノームはハルトの背中を撫でながら答える。
「あのハルトが本当に強くなって。ジジイは嬉しいぞ」
ノームの目に涙が溢れる。
「じっちゃん、俺もっと強くなって必ず国へ帰る。だから先に戻って、父さんを頼む!」
「分かっておる。ライド殿についてはワシも心配しとる。ついでにお前が元気にやっとると伝えておくわ」
「うん、ありがと。じっちゃん」
「じゃあな、ハルト。また会おうぞ!」
「うん!!」
ノームはそう言いながら姿を消して行った。
召喚域が消える。そしてハルトは長に向かって言った。
「じゃあ呼ぶよ。我が名はハルト。その名に契りし盟約により汝を呼ばん!! 召喚【ハイウルフ・ウェルス】!!」
ハルトがそう叫ぶとその横に現れた魔法陣からウェルスが現れた。驚く一同。ウェルスが言う。
「これがヒトナキモノなのか? なんか力が溢れている!!」
ウェルスが自分の体を見ながら言う。
「そうだよ、召喚士の力を吸収しているんで元の時よりも幾分強くなっているはず」
「なんと!」
説明を聞いたガイアが驚く。
「これならガイアの足手まといにならずに行けそうだ! オヤジ心配するな」
ウェルスの言葉に長は諦めたのか、目を閉じて軽く頷く。
「ハルト、よろしく頼むぜ!!」
差し出された手を握るハルト。
「こちらこそ!!」
「それでは彩国への特使としてマスターウルフのガイアにハルト達を任命する。里の守りはラーゼに一任。皆頼むぞ!!」
「ははっ!!」
その場にいたウェアウルフ一同が頭を下げる。
こうしてハルト達の彩国への特使としての派遣が決まった。
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