5.魔物狩り

「ハルト、右だ!!!」


ウェアウルフの里から少し離れた郊外。そこでウサギ型の魔物と戦うウェルスとハルト達。


「ライトシールド!!」


ガツガツガツ!!


ハルトが出したシールドに魔物がかじりつく。



「グワアアアアア!!!」


ズサッ、ズサッ!!


ウェルスの攻撃。

手から伸びた鋭い爪が、周りにいる魔物達を次々と切り裂いて行く。



シュン!!


グサ!!


ルルの正確な弓矢。



「はあああああ!!!」


ズン!!


そしてクレアの素早い剣も次から次へと魔物を討ち取って行く。



「イシツブテ!!」


ドンドンドン!!!


「ギャ!!」


ハルトの【ヒトナキモノ】ノームも負けじと魔法で援護する。




「ふう、ちょっと休憩だ」


一通り魔物を倒した後、ウェルスが声を掛けた。


「あのノームはハルトの、その【ヒトナキモノ】って奴だったのか」


「ああ、そうだ」


「それに護衛士って便利だな。自在に盾も出せるとは。最初にハルト達を襲った時も急に現れた盾に驚いたのを覚えている」


ウェルスは腰に付けた水筒から水を一口飲んでからハルトに言った。


「まだ駆け出しだけど、熟練度が上がればもっと強い盾を同時に何枚も出せるようになる」


「へえ~、そりゃすげえ」


ウェルスは興味津々で聞く。


「ウェルス、少し聞きたいんだが、さっき倒した魔物にウェアウルフがいたと思うんだが、良かったのか?」


ハルトもウェルス同様、草の上に腰を下ろして尋ねる。


「ああ、大丈夫だ。ウェアウルフってのは3つのランクがあって、まずはただのウェアウルフ。こいつらは知能もほとんどなく本能のまま目に映るものを攻撃してくる。同族の我らでもたまに狙われる。まさに獣だ」


ハルトは黙って聞く。


「その上のクラスが、俺もそうなんだがハイウルフ。知性を持ちこうやって話すこともできる。里を築くなんて芸当もやる。里にいた連中のほとんどがハイウルフだ」


「なるほど」


「で、最後に最上位クラス、これがマスターウルフ。知能や武芸に秀でた者達で里にもたった3名しかいない。攻撃のガイアに、守備のラーゼ、そして長である俺のオヤジだ」


ハルトは説明を聞きながら長の隣に立っていた屈強なウェアウルフを思い出した。


「ガイアとラーゼは別格として、オヤジに関してはもう年だし、まあちょっとした怪我もあって往年の力はない」


ウェルスは少し寂しそうに言った。


「じゃあ、ウェルスが後を継ぐのか?」


ハルトの言葉に少しだけ反応したウェルスが言う。


「お、俺はマスターウルフじゃねえし、長なんて……、俺は自由を愛するウェアウルフだ」


ふたりの会話を聞いていたクレアが言う。


「顔に長になりたいって書いてあるわよ」


「えっ、本当か!?」


クレアに言われウェルスが慌てて顔を拭く。


「クレア、冗談はよしなさい」


ルルがクレアをたしなめる。


「じょ、冗談かよ。やめてくれ……」


クスクスと笑うクレアとルル。ただハルトは真面目な顔をするウェルスを見てあまり笑うことはできなかった。



翌日からもハルト達は一緒に魔物狩りに出掛けた。

ウェルスの言う通り、一度だけ火を扱う敵であるサラマンダーに遭遇した。巨体でありながら中々の素早い動き。防御しながらの戦いで全力で剣を交えたが、結局倒し切ることはできなかった。


しかし毎日必死に戦闘を行ったことによって、ハルトを始めクレアやルルも確実に戦闘能力が上がっていた。



そんなある日、ハルトに【ヒトナキモノ】であるノームが話し掛けた。


「なあハルトよ」


「どうした、じっちゃん?」


「ここはとても澄んだ土地でワシには居心地が良いのじゃが、南西の方角にちょっと気になる場所があってのお」


ノームは少し難しい顔をして言う。


「気になる場所って?」


ハルトが聞き返す。


「土地がよどんでいるというか、悪しきオーラが出ているというか。そこだけ明らかに他と違うんじゃ」


ノームの話を聞いていたウェルスが尋ねる。


「具体的にはどんなことなんだ?」


「分からん。悪しき者がいるのか、それとも何か土地を汚すようなものがあるのか」


「そうか……」


ウェルスは腕組みをして考え込んだ。


「そっちには何があるんだ?」


ハルトがウェルスに聞く。


「特に何も……、あっ! そう言えば大昔に滅びた集落があったな」


「集落?」


「ああそうだ。誰も住んではいないはずだが、ちょっと調べてみた方がいいかもしれん」


「分かった、俺達も同行するよ」


「そうか! それは助かる」


ウェルスが喜んで顔を舐めそうになるのを、素早くかわすハルト。笑うふたりの姫。

翌日その集落の調査に出掛けることを約束してハルト達は一旦里に戻った。





「きゃああああ!!!」


「わわっ、ごめん!!」


「ちょ、ちょっとあなた、何してるのよ!!!」


ハルト達の部屋に響くルルの叫び声。謝るハルト。クレアがルルの前に両手を広げて仁王立ちする。


「し、仕方なないだろ。壁のタオルが勝手に落ちたんだから!!」


必死に言い訳をするハルト。しゃがみ込み体を隠すルル。顔を真っ赤にして怒りながらクレアが言う。


「あなた見たでしょ! 見たでしょ!!」


「いや、その……、そもそも仕方ないだろ。壁も無いんだから……」


ハルト達が宿泊していた部屋には【水浴び場】はあるのだが、そこには壁がなかった。ハルトがウェルスに確認したのだが、


「裸が見られる? 何故それがいけないんだ? 恥ずかしい? 何だそりゃ?」


と全く相手にされなかった。価値観の違いであった。ハルト達の部屋にあるのはシャワールームではなく簡単な水浴び場。ウェアウルフにとってはそれで充分事足りるものであった。



「と、とにかくあなたは一旦外に出なさい!!」


「は、はい!!」


クレアに怒鳴られハルトはそのまま勢いよく部屋の外に出る。



「ふうっ……」


バスタオルを体に巻いて顔を赤らめるルル。クレアが大きく息をついて言う。


「まあ仕方ないわよ、ルル。元々壁もないんだし……」


「うん、分かってる。目隠しのタオルが落ちたのも私が引っ掛かったせい。でも、恥ずかしい……」


エルフにとって肌を見られることはヒト族以上に恥ずべきこと。それは十分理解してたクレアだが、実はそれとは別に違うことをずっと考えていた。



(ルル、あなたいつの間にそんなに成長したの!? ま、負けてる、この私が……!?)


クレアは怒りやら恥ずかしさやら屈辱感に敗北感、その他色んなものが混ざり合って、いつしかルルよりも赤い顔になっていた。

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