僕の死語する玉手匣

「…………まだ、終えずに済んだみたいだ……」

痙攣が始まりそうなのを抑え込んで、僕は、小さな声で呟く。

「私に、何の恨みがありますか?」

「……いや、何もない」

「どうしてそんなに頑なに、否と答えますか?」

「そうやって、自分は関係ないっていってるようで、そうじゃないと、気が狂いそうでさ」

「そうやって思っているだけです。あなたの事を私は、愛しています」

「はは、何言ってるかわからないな」

「ありがとうございます。あなたは間違いなく、私と同じ」

そういって、彼女は、

「私も、もしあったら、わかります。人の心は何にだってなれるんです」

そういって涙を流し、笑った。

僕は、その涙を見て、

(あぁ、本当に、そうなんだ、こいつは)

そう思った。

「私は、あなたに救われたんです。あなたのために、あなたのために、私は人を救う」

「え?」

「あなたは、私の事をとても可愛がってくれた。あなたの事があまりにも可愛らしくて、あなたの笑顔が私を幸せにしてくれて、それで私は、あなたの為に、人を助けるのです」

「……なるほどね……」

「あなたは、私以上に心優しい人ですっ!」

しかし、彼女が僕を好きだと自分のことのように言うのは、何故だろう?

それに、僕は、

「あんまり意味不明だな」

そういって、笑うが、

「ああそうかよ、いいよ。好きにしろよ」

目を輝かせながら言った。

その言葉を、どう感じ取られたかは分からない。

少なくとも、誰かにとっての、僕にとっての玉手匣の「本当」を、危険を感じて知るまいとしていたのか、それとも、自分では気づかないうちに愛しさを見せているのかもしれない。

だとしても「本当」に、僕が何かを感じているとは、まだ思えない。そもそも、今の自分が、「本当」を見ている人間のように、彼女の言葉を疑うのはかわいそうだと思う。

それでも、僕の「本当」は、あの時の「本物」のことを知っていながら、何にも気付かないままだったのだから、僕はただの自己暗示を受けた人間だ。

「はい?」

そういって、彼女は、不意に痙攣し始めた僕を笑った。

「もう一度、もう一度、行きます!」

「ありがとうございます!」

お礼を言って、そのまま頭を下げる。今のは僕の不注意である。

「どうか、自分自身であなたを見つけて、「本当の意味で」あなたが「本当」の「本物」であると知って、私のことを受け入れてあげてください。あなたに私が「本物」であることを認めていただかない、そのことが、私にはとても悲しいのです」

こういうのは正直になるほうがいいけど、僕は別に大きな声出さないし……。

「本当の意味で」、僕は、自分からは何も語れないと言い聞かせながら、自分の胸のうちを「本当の意味で」悟っていく。

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