オーディション
これから何かしらの戦闘を行うというのに、それに気づく者は誰もいない。気づいている者も、ただ気づいただけで、それが何であるかに関しては何ひとつ具体的な事は感じていなかった。
ただ、それは地下空洞の中に無辺に広がる空間。そこに無数のオーディションがあるということだけが、わかっていた。
今から数分前。
それは唐突な事件だった。
「おい、あの子は大丈夫じゃないんですかね?」
「あの子って……?」
「いや、だってあの子。」
「あっ」
その時。
その少女の後方に、小さな黒い人影が見えた。
「大丈夫か!?」
『大丈夫。』――
そう少女は呟いた。
直後。
黒い人影の全身が、真っ赤に染まった。
『大丈夫。』――
真っ赤になった影が、崩折れた。
「平気だった?」
赤い遺骸の上の、その人影を、少年の声が照れさせる。
『問題ないよ。』――
「ああ」と返事が聞こえる、そんな感じがして、少女は一瞬、不思議そうな顔をしたが、すぐに笑った。
『ああ、良かった。』――
そう呟いた後、少女は顔をあげて、少女の向こう側、オーディションを取り囲んでいる人物のひとりが、何を思ったのか、とそう問いかけてきたので、それに答える。
『大丈夫。』――
そう。
「なんともない」
そこにいたのはまだ十歳かそこいのちょい上くらいだろう、少女と、黒髪の少年。
だが、その少年は何も語らない。
少年は不安そうにあたりを見回す。
評価の呟きと囁きが、遠く、かすかに聞こえる。
ただ、黒いオーディションを取り仕切る人物たちの、気配だけは濃厚にあったが、ただし、その居る場所は、現在位置からは特定できなかった。
オーディションが終わるまで、後どれだけ戦いが続くのか。
あの子と、いつまでいっしょにいられるだろうか。
少年は、そんな事を考えた。
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